見えてきた中央銀行デジタル通貨の「想像図」星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(3/4 ページ)

» 2020年08月05日 07時08分 公開
[星暁雄ITmedia]

 現実に金融システムで使われている決済システムは、階層構造を持ち中央集権的である。1層目には各銀行がそれぞれ独自に構築している勘定系システムがある。2層目は銀行間を結び送金処理を行っている全銀システム、3層目に、資金決済を確定させる日銀ネットがある。ここには「マネーの壁」が存在する。「"縦方向"には、決済システム階層の壁がある。"横方向"には、発行者=債務者が違うことによるマネーの壁がある」(副島氏)。この壁のため、複数のシステムの間での相互運用性が損なわれている。

現在の決済システムには「マネーの壁」がある。CARFシンポジウムの副島豊氏のスライドから。

 この「マネーの壁」の存在が、中央銀行デジタル通貨の必要性を示している。現金の大きな特徴は「ユニバーサルアクセス」、つまりどこでもみんなが使えることである。中央銀行デジタル通貨も、どこでも通用するデジタルなマネーとしての機能を備え、相互運用性を提供する。これは今までの決済システムで欠けていたものだ。

 副島氏が挙げたもう1つの必要性が、「情報のビークル(乗り物)としてのデジタル通貨」である。デジタルならではの特性といえば、価値以外のデータやプログラムを載せることもできる。これにより、デジタルならではの付加価値を持たせることが可能となる。

中央銀行デジタル通貨の「間接流通」について議論

 副島氏はパネルディスカッションで、リテールCBDCの3種類の類型を示した。

  1. 直接発行型。全国民が中央銀行に口座を持つイメージ。
  2. 間接発行型。民間金融機関がマネーを発行し、価値を保証するアセットとして債務を中央銀行に持たせる。この構図は、Libraやステーブルコインと変わらない。
  3. 間接流通型。現金と同様に、銀行が中央銀行の債務(ここではデジタルトークン)を在庫として仕入れ、ユーザーに渡す。

 よく議論されるのは、2. の間接発行型だが、この場合は「マネーの壁」の弱点が出てくると副島氏は指摘する。「発行体が異なれば、債務者が異なるので違うマネーとなる」

 この議論で描き出されたCBDCの姿は、「決裁手段として中央銀行が発行したデジタルトークンを使うが、決済システムは民間のサービスを使う」というものだ。中央銀行が発行した紙幣を民間の銀行がユーザーに流通させるように、中央銀行が発行したデジタルトークンを民間の銀行のシステムで流通させる。

民間デジタル通貨も脱サイロ化を狙う

 ここまでは「マネーの壁」を取り払うものが中央銀行デジタル通貨である、という議論を見てきた。一方で、民間のデジタル通貨でも、「マネーの壁」を取り払うこと、つまり相互運用性を高めることが大きな狙いとなっている。

 民間のデジタル通貨についても見ていこう

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