「公共のデジタル通貨」 ビットコインでもCBDCでもない挑戦星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(1/5 ページ)

» 2020年07月08日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]

 「デジタル通貨」分野の動向を追っていくと、いくつかの「問い」にぶつかる。例えば「なぜ、ただの紙切れや電子データに価値が付くのだろう?」といった疑問だ。今回の記事では次の問いを取り上げたい――「通貨制度は誰のものなのか?」。見方によっては、暗号通貨ビットコインはこの問いから生まれた。同じ問いから、米ニューヨーク州議会では「民主的なデジタル・ドル」が提案されている。

通貨制度は民意とは独立に運営されている

 2019年7月、Libra(関連記事)に関する公聴会が米議会で開かれた。Libraは米Facebookが打ち出した構想で、民間企業の連合体Libra協会がデジタル通貨を発行する枠組みである。その事業責任者に対して、米下院の史上最年少女性議員として有名なアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)議員はこう問いかけた。「選挙で選ばれていない人々に、通貨のコントロールを委ねるというのですか?」

米下院の史上最年少女性議員として有名なアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員(写真 ロイター)

 オカシオ=コルテス議員の質問は、実は深い問いだった。文脈からいって、議員は営利企業の集まりであるLibra協会がデジタル通貨を発行するアイデアの是非を問いたかったのだろう。ところが、実は現行の通貨制度も、選挙で選ばれた人々のコントロール下にないのだ――少なくとも建前上は。

 現行の通貨制度では、通貨の発行は政府から独立した中央銀行が行う。米国はFRB(連邦準備制度理事会)、欧州はECB(欧州中央銀行)、日本は日本銀行、英国はイングランド銀行――これら中央銀行の幹部は高度な専門的キャリアを持つ人々だ。しかし選挙で選ばれたわけではなく、選挙で選ばれた人々の管理下に置かれているわけでもない。

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