「公共のデジタル通貨」 ビットコインでもCBDCでもない挑戦星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(3/5 ページ)

» 2020年07月08日 07時00分 公開
[星暁雄ITmedia]

通貨制度へのアンチテーゼとしてのビットコイン

 しかし、実は通貨制度に対して異議申し立てをする動きはある。その手法は「新手法の提案と、その実現」だ。異議申し立ての正規ルートがないのなら、なんらかの方法で通貨制度の代替案を作ってしまおうという考え方だ。

 まず名前が挙がる存在はビットコインだ。ビットコインは、「政府+中央銀行」による通貨制度に対する最も有名なアンチテーゼである。

 09年に動き始めた暗号通貨ビットコインは、政府からも中央銀行からも独立した「お金」の発行を行うシステムだ。中央制御の仕組みを持たないP2P(ピア・ツー・ピア)の情報ネットワーク(これは後にブロックチェーン技術と呼ばれるようになる)によって、偽造できず、発行量が事前に定められた電子的な通貨を発行し、暗号鍵(プライベート・キー)で所有権を証明できた人以外は誰であっても――たとえ政府機関、法執行機関であっても――価値の所有および移転を止めることはできない。このようなビットコインの仕組みは、政府+中央銀行による通貨制度への批判として提案された。少なくともビットコインの支持者たちはそのように考えている。

 このビットコインのアイデアは多くの人々に刺激を与えた。ビットコイン以後、何千種類という大小さまざまな暗号通貨が登場した。また、少なくとも技術面で中央銀行デジタル通貨(CBDC)の構想に影響を与えた。ビットコインのアイデアから発展したブロックチェーン技術(分散型台帳技術と呼ぶ場合もある)や、利用者口座ではなく電子トークンに所有者の暗号鍵をひも付けることで価値の所有や移転を表現する手法は、例えば日本銀行による中央銀行デジタル通貨の技術的検討の項目に含まれている(参考資料)。

日本銀行が公表した「中銀デジタル通貨が現金同等の機能を持つための技術的課題」

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