6月から、民間主導の「デジタル通貨勉強会」が開かれている。このメンバーは要注目の顔ぶれだ。3メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)、セブン銀行、NTTデータ、KDDI、IIJ、JR東日本、森・濱田松本法律事務所がメンバーとして参加。また金融庁、財務省、日本銀行、総務省、経済産業省がオブザーバとして参加する。
座長はフューチャー取締役で元日本銀行決済機構局長の山岡浩巳氏。事務局はディーカレットが務める。集まりの名称こそ「勉強会」だが、民間主導のデジタル通貨を発行していく準備を進める集まりと見ていいだろう。
このデジタル通貨勉強会の「第4回」の議事録には興味深い内容が記載されている。そこでは複数の銀行から成るコンソーシアムが、共通部分と各行独自部分から成るデジタル通貨決済システムを構築して運用する構想が語られている。
先に紹介した「マネーの壁」の議論では、銀行が違えば、違う種類のマネーとなるはずである。一方、「デジタル通貨勉強会」での議論では「銀行が違えば、銀行間清算が必要なのではないか」との問いに対して、「共通部分を共有していれば、どの銀行が(デジタル通貨を)使っても価値は同じである。このため、銀行間の清算は不要という理解である」と回答している。
これは、複数の金融機関から成るコンソーシアムが、事実上ひとつのデジタル通貨を発行するモデルといえる(関連記事)。いわば中央銀行の助けを借りずにマネーの壁を取り払う試みだ。
この「デジタル通貨勉強会」ではデジタル通貨のさまざまなユースケース(応用)を検討している。例えば第3回勉強会では運送会社、コンビニエンスストア、給付金配布、保険会社と代理店間の清算、海外取引、小売・流通業のサプライチェーンを取りあげ、第4回勉強会では電力取引、製造業サプライチェーン、交通機関をクラウド化するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、ファイナンスの各分野が議論にのぼった。ビジネスの多くの局面で、デジタル通貨の特性がビジネスの摩擦を減らし、ビジネスの成長に結び付くのではないかとの期待がある。
デジタル通貨をめぐる議論は、論者の立ち位置によって内容が大きく変わってくる。
中央銀行と立場が近い論者は、「CBDCは中央銀行の信用が背後にあるので非常に強いマネーであり、登場すれば民間の金融機関のビジネス、とりわけ信用創造によるマネー供給の機能を損なってしまう。したがって、発行には慎重であるべきである」といった論調である場合が多いようだ。
一方、民間のデジタル通貨を推進する側には、より強い動機がある。デジタル通貨の登場により経済をより円滑に回し、ビジネスの成長に結びつけようとしている。基盤となるブロックチェーン技術は中央銀行も民間の銀行も同じように利用可能だ。
蓋を開けてみれば、CBDCの発行を待たずに民間企業らが自前のシステムで経済を回していくストーリーもあり得るかもしれない。その場合でも、銀行のコンソーシアムに参加できない企業にとってはCBDCの「ユニバーサルアクセス」の側面には大きなメリットがあるだろう。
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