「カメラ事業売却」の衝撃 業務提携中のオリンパスとソニー、祖業を巡る両社の分岐点とは?コロナ禍で好対照(4/4 ページ)

» 2020年08月07日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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 しかし、カーエレクトロニクス部門はスマホ多能化の影響をモロに受け急激な市場縮小に見舞われ、次なる打つ手もないまま同社は18年に香港資本に買収されるという憂き目に遭っています。祖業売却のリスクがなぜ大きいのかといえば、残された事業に「新たな祖業」になりうるほどの勢いがない限り、企業文化の源を売り渡すことで組織は求心力を弱め社内活力の低下や優秀人材の流出などを招き、企業としての総合力がジリ貧状態に陥る可能性が高いからなのです。

 もちろん祖業の売却は、絶対にやってはいけない戦略ではありません。それに代わる事業が絶好調でかつ長期安定成長が見込まれているときならば、大きなリスクを負うことなく新たな祖業への移行を前提として事業売却は可能でしょう。

 しかし変革の時期というのは冒頭にも申し上げたように、祖業に立ち返る、祖業に学ぶ、というように原点回帰が求められるタイミングです。つまりコロナ禍の今こそ、原点回帰しつつコアコンピタンスを再認識し新たな戦略を検討することで、この先を生き抜く自社唯一無二の指針を得ることができるのです。オリンパスの新中核である医療機器事業は、新規参入のライバルも多く利益率に課題を抱えるなど決して絶好調ではなく、同社が今カメラ事業を手放す時期にあるとは到底思えません。

祖業を巡る、両社の分岐点とは?

 ソニーが大ピンチの時代に、いつ解消されるとも分からない大赤字を抱えたテレビ事業をあえて売却しなかったのは、組織が大きな変革を求められているときに祖業を手放すことで負うリスクを重く判断したからに他なりません。そしてソニーは今また、このコロナ禍のパラダイムシフト対応においても創業の精神を重視した新たな指針を打ち出しました。

業務提携関係にあるが、祖業を巡っては分岐点に立っている(出所:ロイター、画像は2012年のもの)

 他方オリンパスは、コロナ禍対応局面で祖業の売却による「選択と集中」の道を選びました。ソニーとオリンパスは12年のオリンパス不祥事発覚時にソニーが救済に名乗りを上げ、オリンパスに出資する資本提携をベースとして業務提携を結んだ過去があります。実はこの資本提携ですが、19年8月にオリンパスがモノ言う株主からカメラ部門売却を迫られる中で、ソニーが所有するオリンパス株を全て売却し解消しているのです。今回の両社の好対照なマネジメント姿勢をみるに、このソニー側からの資本提携解消には何か深い意図があったのではないかとも思えてきます。

 まだ両社の業務提携は継続中ですが、祖業を巡る対応の違いが大きな分岐点になるようにも思えます。コロナ危機を尻目に祖業重視を貫いて今何度目かの絶好調を迎えた昨今のソニーがあまりに鮮やかに映るがゆえに、コロナを機に80年の歴史を持つ祖業を切り捨てたオリンパスの先行きには若干の暗雲を感じる次第です。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時は旧大蔵省、自民党担当として小泉純一郎の郵政民営化策を支援した。その後営業、マーケティング畑ではアイデアマンとしてならし、金融危機の預金流出時に勝率連動利率の「ベイスターズ定期」を発案し、経営危機を救ったことも。06年支店長職をひと区切りとして銀行を円満退社。銀行時代実践した「稼ぐ営業チームづくり」を軸に、金融機関、上場企業、中小企業の現場指導をする傍ら、企業アナリストとしてメディアにも数多く登場。AllAbout「組織マネジメントガイド」役をはじめ、多くのメディアで執筆者やコメンテーターとして活躍中。


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