持ち家がもはや「冗談抜きで困難な夢」になったこれだけの理由“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)

» 2020年08月18日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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災害リスクも不動産価格に影響

 コロナ危機でもマンション価格が値上がりしているのは、テレワークの普及で広い物件を望む顧客が増えたことに加え、集中豪雨による浸水など災害リスクが高まっており、条件のよい物件の奪い合いが生じているからである。

 近年、日本をとりまく気象状況が変化し、各地で浸水被害が続出しているのは多くの人が認識していることだろう。気候変動の影響で前線が停滞しやすくなったり、台風が大型化したりしているのは事実だが、日本は昔から災害大国であり、何度も洪水や台風、地震の被害を受け、多くの死者を出してきた。だが、どういうわけか日本人にそうした認識は薄く、「日本の気候は世界でもっとも穏やかであり、安全で住みやすい国だ」という話がまかりとおってきた(実際に外国に行ってみれば、その話がウソであることはすぐに分かると思うのだが…)。

 こうした危機意識の欠如は、不動産の売買にも影響している。不動産を売買する際、不動産会社は物件固有のリスクなど重要情報について買い手に説明する義務がある(重要事項説明)。だが、浸水リスクは重要事項説明の項目にはなっておらず、浸水リスクを知らずに物件を買っていた人も多い。

 近年、災害が多発していることで慌てた政府は急遽(きゅうきょ)省令の改正を行い、ハザードマップにおける物件位置の明示を重要事項に追加した。8月28日以降に売買される物件については、浸水リスクがある場合、買い手に説明する義務が生じる。買い手にとって安心できる物件はますます貴重になり、価格はその分だけ上がっていくだろう。

 保険も同様である。これまでの損害保険は浸水リスクの地域差を考慮していなかったが、近年の被害拡大を受けて大手各社はハザードマップと保険料を連動させる仕組みに切り替える方針を固めた。今のところ企業向けの商品が対象だが、今後は、個人向け商品においても、災害リスクが高い地域の保険料は高くなり、リスクが低い地域の保険料が安くなる可能性が出てきた。

 保険などの金融面でも縛りが出てくると、買うに値する不動産はますます絞られてくる。持ち家がよいか賃貸がよいかは、世帯の状況によって変わってくるが、ここまで不動産の取得が難しくなってしまうと、一生、賃貸で通すというのも1つの考え方になってくるだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。


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