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» 2020年08月25日 14時50分 公開

星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」:TikTokがトランプ政権を訴えた理由 (3/4)

[星暁雄,ITmedia]

「脅威」の証拠はいまだ公開されず

 過去に話題となったTikTokをめぐる疑惑、問題点をいくつか挙げてみたい。

(1) 13歳未満の子どもの個人情報を集めていた問題

 19年2月、TikTokは連邦取引委員会(FTC)に570万ドルの罰金を支払うことで合意した(FTCの発表資料)。保護者の許可を得ずに13歳未満の子どもの個人情報を収集していたためだった。

(2) ウイグル自治区発言検閲疑惑(問題となった動画は現在公開中)

 19年11月、17歳のアフガニスタン系アメリカ人女性Feroza Aziz氏が、「TikTokに投稿した動画が削除された」とTwitterで報告した。動画の内容は「つけまつげ」のやり方を教えるビデオと思わせておいて、途中から「中国ウイグル自治区の人権侵害について調べて広めてほしい」と訴える内容だ。この動画は一時公開停止となり、Aziz氏のTikTokアカウントは停止された。現象を見ると、中国政府による検閲が疑われる事例のようにも見える。

 この事件が報道(BBCの記事)された直後、TikTok側は公式の謝罪声明を公表した。アカウント削除は別の問題が理由だったという。Aziz氏のアカウントは復活し、動画もふたたび公開された。TikTokは動画が公開停止になっていたのは約50分間だったと説明している。問題の動画は、記事執筆時点で誰でも閲覧できる状態となっている(Feroza Aziz氏によるウイグル自治区の人権侵害を訴える動画)。この動画は記事執筆時点で90万以上の「いいね」、6万件以上のシェアと人気がある投稿である。

「つけまつげ」のやり方を教えるビデオと思わせておいて、途中から「中国ウイグル自治区の人権侵害について調べて広めてほしい」と訴える内容の動画。中国政府の検閲が疑われた。Feroza Aziz氏の動画から

 疑わしい出来事があったことは事実だが、現時点のTikTokは中国政府が望まない動画の公開を続けていることも、また事実である。

(3) クリップボード監視問題(修正済み)

 20年3月、TikTokやLinkedInなど数十種類のアプリが、スマートフォン上でコピー&ペーストに使う「クリップボード」の内容を無断で読み取っていたことが発覚した。TikTokは「スパム行為対策のためだった」と説明し、問題を修正した。

(4) MACアドレス取得問題(19年11月に修正済み)

 8月11日、米WSJが「TikTokがユーザーデータを不正に取得していた」と報道した。日本国内のメディアでも「TikTok、無断で情報収集か」(共同通信の記事)といった見出しで広く報道された。内容は、TikTokのAndroid版アプリが、Androidの提供元であるGoogleの規約に違反して、15カ月にわたり端末固有の「MACアドレス」と呼ぶ情報を収集していたというものである。ただし19年11月18日のアップデートでこの問題は解消された。また、TikTok以外にも約350種類のアプリも同様にMACアドレスを収集していた。

 MACアドレス収集の目的はターゲティング広告だ。MACアドレスが分かれば、広告へのアクセスが同じ端末を使っているかどうかがすぐ分かる。スマートフォンの利用者の情報を集めて広告を最適にカスタマイズするために使う。これはテクノロジー業界の習慣からいって「行儀が悪い」やり方だ。そのためAppleもGoogleも規約によりMACアドレス収集を禁じていた。

 この報道を別の切り口で見ることもできる。WSJはTikTokの行った悪質な行為を暴くために技術的な調査を行った。ところが現行バージョンのTikTokでは問題を発見できなかった。そこでやむなく、9カ月前の古いバージョンでMACアドレスを収集していた問題を記事にしたのである。

 TikTokアプリが、保護者の同意を得ない子どもの個人情報収集や、コンテンツの検閲と疑われる行為や、クリップボード内容の傍受や、MACアドレスの収集を行っていたことは過去の事実だが、いずれも修正された。また、クリップボード内容の傍受やMACアドレス収集は他の多くのアプリが同様の振る舞いを行っていた。もちろん、これらの問題が発覚したことは、ほめられた話ではない。だが問題は修正されている。

 最近、欧州でもTikTokのプライバシー侵害を調査する動きが始まった。どのような結果が出るかはまだ分からない。1つ言えることは、TikTokは厳しい視線の中でビジネスを行っていることを自ら認識している。その中で、意図的な「悪さ」を行うことは考えにくいのではないだろうか。

 トランプ政権側も、TikTokを追い詰めるためプライバシー侵害を問題とするのではなく、別の言い方をするようになってきた。それは「安全保障上の脅威」である。

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