この問題をもう一度、冷静に考えてみよう。
TikTokは市場で競争に敗れたわけではない。また現段階での材料では、TikTokが行った行為が特別に悪質で市場からの退場が必要とまではいえない。TikTokは米国のトランプ政権が中国に対して仕掛けた経済戦争の標的にされただけだ。
トランプ政権は、8月6日の大統領命令の段階では「プライバシーの脅威がある」と言っていたが、8月14日の大統領命令では「安全保障上の強い懸念がある」という言い方に変わった。プライバシーの脅威に関しては材料が弱かったということだろう。その代わり、TikTokには「安全保障上の強い懸念がある」と主張する。ティーンエイジャーが踊ったり歌ったりおどけてみせる動画を楽しむアプリに、安全保障上の強い懸念があるというのである。
トランプ政権が引き合いに出すのは、中国で17 年に施行された国家情報法である。この法律に従うと「中国企業は中国の国家のためにスパイ活動をすることになる」とトランプ政権は主張する。だが、これはTikTokに限った話ではない。
サイバーセキュリティも、安全保障(ナショナルセキュリティ)も「穴」があるやり方では守れない。もし中国の脅威が存在するとしても、たまたま目立っていた中国企業を1社ずつ名指しして排除していくやり方は有効な対処法といえるのだろうか。
トランプ政権は「中国企業外し」を次々と進めており、TikTokへの圧力もその一環と見られる。だが、TikTokに関する圧力のかけ方は特にずさんだ。その事が、TikTok側に反論の余地を与えているのだ。
もう1つの視点がある。TikTokを政府が強制的に閉鎖させることは、はたしてアメリカ合衆国という国の理念と一致するのだろうか。Matt Littele議員がおふざけをしてみせる動画や、17歳のFeroza Aziz氏がウイグル問題を訴える動画は、米国政府の命令で削除されなければならない内容なのだろうか。
100年以上の歴史を持つ人権/公民権団体ACLU(アメリカ自由人権協会)は、「TikTokとWeChatを禁止するな」と題した声明文を発表した。そこでは、TikTokのような表現のプラットフォームを「選択的に禁止」することは、「言論の自由を定めた合衆国憲法修正第1条に違反し、個人情報を悪用から守ることにはつながらない」と述べている。
TikTokはティーンエイジャーが踊ったり歌ったりおどけてみせる、どうということのない動画を楽しむアプリだ。新聞やテレビのような報道機関とは違う。だが、そこには人々の表現がある。表現の自由は人権の一部として憲法により守られるべきものだ。
もしTikTokに本当に問題があるのなら――例えば政治的主張の検閲があったり、プライバシー上の脅威があるのなら――すべてのアプリが守るべきルールを定めて規制した上で、表現の自由を守っていくことが行政が取るべきやり方ではないだろうか。
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