リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2020年09月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

静岡県民よりも「首都圏」を見据えている

 なぜ静岡空港の軌道系アクセスは東海道新幹線のみ検討されていたか。それは新幹線新駅の表向きの理由が「首都圏第3空港」だから。そこに「のぞみ通過の恨み」も含まれる。

 のぞみ通過に関しては、静岡県の人々は一様に悔しい思いをしている。それは東京・京都・大阪・山陽方面の速達性に劣るだけではない。静岡駅の地位、プライドの問題だ。ブルートレイン全盛期は、東京発九州方面のブルートレインのほとんどが静岡駅に停車した。現在のサンライズ出雲/瀬戸も含めて、静岡県は西日本の主要都市に乗り換えなしで行ける県だった。それが今ではいったん「こだま」や「ひかり」に乗り、「のぞみ」停車駅で乗り換えを強いられている。

 ただし、のぞみを停めろという主張は間違いだったと思う。2002年に当時の静岡県知事は、静岡県内を通過するのぞみに通行税を取りたいと発言した。のぞみという列車の性格からして、JR東海は受け入れがたい。むしろ、インバウンド需要を見据えて「ひかりをもっと増やせ」と主張した方が理解を得られたと思う。外国人観光客向けのフリーきっぷ「ジャパンレールパス」ではのぞみに乗れないからだ。19年に私は何度か「ひかり」に乗ったけれども、常に混雑していた。

 むしろ静岡県民にとっては「のぞみ」の役目をFDAに担ってもらった方が幸せかと思う。静岡空港とFDAがあれば、のぞみなんて要らない。そう考えた方がJR東海に対して腹が立たないと思うが、どうだろうか。

 「首都圏第3空港」は、東京オリンピックの開催とインバウンド需要の増加で羽田空港、成田空港ともに処理能力を超えてしまうという予測のもと、国土交通省が検討している施策だ。国交省の「首都圏空港の機能強化策について」(14年6月)によると、まずは羽田空港、成田空港の改良があり、次に「その他の空港の活用」として、横田基地、百里基地(茨城空港)、そして静岡空港が「空港アクセスの改善」を検討できるとして挙げられている。

 ただし静岡空港は遠い。東京から約170キロ。東京から約180キロの福島空港と比較されるほど遠い。だから新幹線駅が重要になっている。

 静岡空港新駅は新横浜駅から55分で到達可能になるという試算がある。新横浜〜羽田空港間は高速バスで約30分。鉄道だと乗り換え込みで約50分。首都圏の西側からは羽田空港と同様の所要時間で、もちろん成田空港より近い。地震や津波で臨海部の羽田空港が被災した場合も、高台の静岡空港と東京を東海道新幹線で直結すれば代用できる。川勝知事はこの点を強調して国交省に静岡空港のILS(計器着陸装置)グレードアップなどを働きかけている。

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