リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2020年09月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 富士山静岡空港を利用する機会があった。コンパクトで機能的。搭乗待合室や展望スポットから富士山が見える。駐車場も広く、ターミナルビルの目の前だと有料で1日上限500円。その周囲の駐車場はなんと無料。バスは静岡駅から約50分。島田駅から25分。金谷駅から13分。大井川鐵道新金谷駅から18分。掛川からはFDA(フジドリームエアラインズ)の利用客向けに無料バスが運行されている。

 ここを拠点とするFDAのジェット機は日本国内で採用数が少ないエンブラエル E-Jetだ。80席前後と小さいけれど、実はこのサイズがちょうどいい。大型観光バス2台分だから、チャーター便による団体旅行を造成しやすい。FDAや静岡空港の関係者に聞くと、新型コロナウイルス禍になる前は、海外からの定期便もある上に、チャーター便を多数運行していたという。定期便が少なくたって、取りあえずバス2台分のツアーを集客すれば、FDAはどこへでも連れて行ってくれる。静岡空港はまさに「静岡県民のための空港」だ。

富士山静岡空港(静岡県牧之原市・島田市)

 ただし、惜しむらくは鉄道やモノレールなどの軌道系アクセスがないことだ。

 富士山静岡空港の真下を東海道新幹線が通っている。正しくは、東海道新幹線のトンネルの上に空港を作った。そこに線路があるなら駅を作ればいいじゃないか、というわけで、静岡県は東海道新幹線に静岡空港駅を作りたい。2014年度補正予算で予定地周辺の調査費を計上し、15年度予算で有識者会議の開催費を計上した。

 しかし、JR東海は一貫して拒否している。掛川駅に近すぎるからだ。こだま号を静岡空港駅、掛川駅に連続停車させると、東海道新幹線のダイヤのバランスが崩れ、のぞみを増発できなくなる。もう一つ言うと、静岡県に限らず、JR東海は東海道新幹線周辺で工事をしてほしくない。線路付近の工事については、そこがJR東海の土地ではなくとも、JR東海に対して丁寧に説得する必要があるという。それはJR東海の東海道新幹線に対する責任とプライドの表れだ。だからこそ、自ら東海道新幹線をイジりたくない。

 静岡県もそれは分かっているようで、JR東海を説得するために、16年度予算で新駅の測量・設計・調査費用として10億円を計上した。しかし、この10億円を予備費として盛り込んだために、県庁や県議からの反発もあったという。予備費は本来「使い道を定めず、緊急事態に備えるため」の項目だからだ。

 なぜ予備費にしたかといえば、測量調査にはJR東海の協力が必要であり、JR東海の賛意が得られる見通しが立っていなかったから。確実に調査を実行できる見通しがなく、使い道が未確定な予算項目は立てられない。JR東海の許諾は緊急事態かとツッコミたいところだけれども、どうにかして静岡空港新駅を進めたいという強い意思を感じる。

 静岡新聞1月25日付「空港駅調査費、見送りへ 静岡県、成果出ず判断 20年度予算案」によると、16年度は調査が行われず、2月の補正予算で全額が減額された。これを含めて、静岡県は14〜18年度で合計4000万円の調査費を計上し、19年度も500万円を計上、執行した。しかし、20年度は空港調査費が計上されなかった。県が独自で実施できる調査は終わったとの見解からだ。ただし「リニア中央新幹線の取引材料と見られたくなかったからでは」という県議の声を紹介している。前年からリニア着工問題が注目されてきたからだ。

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.