リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2020年09月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

「真下にあるから新幹線駅」は安直すぎないか

 国内航空路の発展に伴い、長距離列車の需要は低下した。「鉄道で4時間かかる都市間は航空需要が見込める」として、地方空港も整備された。鉄道対航空で言われる「4時間の壁」は、もともと空路開拓のためのスローガンだ。だから算定基準は鉄道の主要駅だった。新幹線建設の理由「新幹線で4時間を切れば空路に対抗できる」は、この理論を逆手に取ったわけだ。

 そして、4時間の壁を越えられない長距離列車は衰退し、鉄道事業は大変革が起きる。つまり、長距離需要が空路にシフトするなら、鉄道は空港アクセス輸送に商機がある。道路状況に左右されるバスやタクシーより、鉄道のほうが定時性があり便利だ。羽田空港のモノレールがそれを証明していたし、成田空港の建設時は成田新幹線やリニアモーターカーの構想があり、1978年には京成電鉄がスカイライナーの運行を開始する。

 地方空港も主要駅から離れた場所に作られた。しかし鉄道建設には費用がかかるため、連絡バスや自家用車のアクセスが主だった。しかし、国鉄時代の80年に開業した千歳空港駅で潮目が変わった。当時の旧駅(現・南千歳駅)は空港ターミナルビルまで長い連絡橋を介していた。それでも空港アクセス鉄道の有効性が認められた。京成スカイライナーの成田空港駅(現・東成田駅)も当時はターミナルビルと離れていたけれど、91年に成田新幹線用地の一部を使ってスカイライナーとJRの成田エクスプレスが走り始めると、空港駅の便利さが認められた。

 93年に福岡空港ターミナル直下に福岡市営地下鉄の駅ができた。94年に関西空港駅が開業した。97年には大阪空港に大阪モノレールが延伸開業する。その後、各地の空港で軌道系アクセスが検討され、開業していく。最近では熊本空港アクセス鉄道の構想がある。ただし建設費の大きさと需要の見極めのため、一時停滞している。

 地方空港でアクセス鉄道を検討する場合、需要を予測し、複数の案とコストを考慮し、最も便益が大きいシステムを採用する。だから一般的な鉄道とは限らない。神戸空港では新交通システムのポートライナーが延伸し、沖縄では那覇空港を起点にゆいレールが走り始めた。一般的な鉄道が選ばれる場合は、都市や観光地に直通した方が便益が大きい場合となる。

 ところが、静岡空港については、複数の案を詳細に検討した形跡がない。もともと新幹線ありきだ。敷地の地下を新幹線が走っているからその線路を使おう、というアイデアは分かりやすい。しかし、それはあまりにも安直ではないか。それは本当に静岡県民の役に立つのか。

 本来は、在来線の東海道本線から分岐する案、島田駅・金谷駅などから新交通システムやモノレールを建設する案が検討されても良かったはずだ。

静岡空港駅設置予定地。空港直下案と呼ばれているけれども、ターミナルビル直下ではない(地理院地図を加工)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.