攻める総務

コロナ禍で変わる新しいワークプレイスの在り方

» 2020年09月23日 07時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「コロナ禍で変わる新しいワークプレイスのあり方」(2020年9月3日掲載、金融研究部 主任研究員 吉田資)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大手企業を中心に急速にテレワークなどによる「在宅勤務」が普及するなか、テナント企業のワークプレイスに対する考え方に変化が生じている。

 内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、テレワーク実施率は、全国で35%、東京都区部では56%となり、半数を超えた。通勤時間の削減によって家族との時間が増えたなどのメリットから、テレワーク利用者の半数近くが今後もテレワークを中心として働くことを希望している(図表1)。

 また、ザイマックス不動産総合研究所のアンケート調査によれば、「アフターコロナのワークプレイスの方向性」に関して、「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」(47%)との回答が最も多く、「テレワークを拡充し、メインオフィスを縮小する」との回答は14%にとどまる(図表2)。今後は「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせたワークスタイルが定着していくことになりそうだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた事業継続活動(BCP)を考えた場合、今後、事業拠点のエリア分散を検討する企業が増える可能性がある。これまで、企業のBCP対応は、地震などの自然災害企業への対応が中心で感染症拡大への対策は相対的に遅れていた。今後、拠点分散に取り組むにあたり、郊外の「シェアオフィス」や「レンタルオフィス」などを利用する企業も増えると思われる。

photo (図表1、2):テレワークの実施状況 アフターコロナのワークプレイスの方向性

 ところで、「在宅勤務」では「コミュニケーションの量」が生産性をはかる重要な指標となる。特に、管理職や営業職等、対面でのコミュニケーションが求められる職種では、在宅勤務は非効率で生産性が低下するとの指摘がある。パーソルファシリティマネジメント「在宅ワーク経験者対象 今後のワークスタイルに関する意識調査」によれば、在宅勤務の経験者が「これからのオフィスに求めるもの」として、「気軽に質問・相談できる場」との回答が半数を、「新しい知恵・知見を得る場」との回答が約4割を占めた(図表3)。実際に在宅勤務を経験し、オフィスはコミュニケーションを図る場として重要だと再認識されたといえる。

 一方、人との交流機会の場であるオフィスは、不特定多数の利用者が出入りすることから、感染症拡大防止や利用者の健康に配慮した対応が求められている。前述のザイマックス不動産総合研究所の調査では、アフターコロナのワークプレイスの方向性として「健康や感染症対策に配慮したオフィス運用(衛生管理、人口密度など)」との回答が23%、「健康や感染症対策に配慮したオフィス設計(換気、面積、動線など)」との回答が14%を占めている(図表2)。

 ザイマックス不動産総合研究所「ビルオーナーの実態調査2019」によれば、これまでビルオーナーが価値向上のための実施した施策は、「設備の省エネ化(照明のLED 化等)」や「エントランス等の共用部分の内装リニューアル」が中心で、「利用者の健康につながる設備やサービスの導入」を行った事例は少なかったようだ(図表4)。

 「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせたワークスタイルの定着や、「シェアオフィス」の利用拡大など、オフィスビルの事業環境は大きく変化している。このような状況下で、ビルオーナーは、いわゆる「3密」を回避しつつ、生産性を高めるコミュニケーションの場を提供することが求められている。企業業績の悪化に伴い、テナントのスペース需要が縮小することが懸念されるなか、テナントのニーズ変化に対応した不動産マネジメント力がこれまで以上に求められることになりそうだ。

photo (図表3、4):これからのオフィスに求められるもの、ビルの価値向上のための施策

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