「トリクルダウン」に期待してはいけない火が灯かないまま(1/4 ページ)

» 2020年09月26日 07時30分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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日沖博道氏のプロフィール:

 パスファインダーズ社長。30年にわたる戦略・業務コンサルティングの経験と実績を基に、新規事業・新市場進出を中心とした戦略策定と、「空回りしない」業務改革を支援。日本ユニシス、アーサー・D・リトル等出身。一橋大学経済学部、テキサス大学オースティン校経営大学院卒。日本BPM協会アドバイザー。


 菅新政権には、「(コロナ禍で大変な時なので)安倍政権の路線を継続して欲しい」という声も強いが、同時に安倍政権では十分踏み込めなかったテーマとして「省庁の縦割り打破」や「規制改革」に期待する街の声も多く見られる。

 ここで前政権が何を達成できて何をやり残したのかを振り返っておくことが有効だろう。その中から、中長期的に見たとき(短期的には間違いなく「コロナ対策」と「景気対策」の両立のはずだ)新政権が本当に重点的に取り組むべきものは何かが見えてくるはずだからだ。

 端的に言えば、前政権が高らかに掲げた看板政策「アベノミクス」、すなわち1)大胆な金融政策、2)機動的な財政政策、3)民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」のうち1)と2)はかなり強力に推進実行された。その相乗効果もあり、政権発足前の日本を襲っていた超円高は転換され、輸出企業を中心に企業収益は改善され、大幅な株高が投資家たちの懐を潤わせた。

 しかしその後に続くはずの3)成長戦略は結局のところ不発のまま終わってしまった。本来なら規制緩和とイノベーション支援など、民間投資を促進させる策を次々と繰り出してこそ、世のデフレ心理を転換させ景気循環を改善させる動きにつながるはずなのに、有効な策を打ち出せなかったのが実態だ。

 つまり「成長戦略」こそがアベノミクスの中核本体部分であり、「金融政策」と「財政政策」はそのための導火線という位置づけだったのだ。そしてその中核本体部分に火が灯かないままに前政権は終わってしまった。

 本来なら粘り強く規制緩和と民間投資を促進させる策を講じるべきところだったが、なかなか「成長戦略」の成果が上がらないことに業を煮やしたのか、安倍政権はしばらくすると「成長戦略」の部分を色々と看板を掛け替えて(「一億層活躍」やら「働き方改革」など)目新しさを維持しようとし、どれも中途半端に終わってしまったという印象がある。そのため「成長戦略」の面では一向に成果が上がらず、結果的にアベノミクスは本格的な景気回復と日本経済の成長というシナリオにはつながっていないと総括せざるを得ない。

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