全てのビジネスパーソンが、東証の“完璧すぎる記者会見”を見るべき理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2020年10月09日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 10月1日に、東京証券取引所でシステム障害が発生した。終日まで全銘柄の売買が停止されたのは史上初めてであるという。証券取引所は日本の金融において心臓部とも呼ぶべきもので、“絶対に止まってはならない”機関であった。1日の障害は翌日に復旧したものの、復旧後の市場は「また止まらないか」と疑心暗鬼ムードで幕開けし、日本の金融システムに爪痕を残すこととなってしまった。

 しかし、システム障害当日の夜に実施された記者会見は、「完璧」といっても過言ではない内容であり、ビジネスパーソンにとって見習いたい点が数多くみられた。現に、会見前にはSNSを中心に東証を批判する投稿がほとんどであったものの、会見後には真摯な会見対応を評価する声も決して小さいものではなかった。あの会見には、東証のどんな優れたポイントが隠れていたのだろうか。

東京証券取引所(写真提供:ゲッティイメージズ)

「調査中・確認中」を言わなかった経営陣たち

 この記者会見でまず目を見張るべきポイントは、システム障害当日に開かれた会見であるにもかかわらず、経営陣が「調査中」や「確認中」というフレーズを一切使用しなかった点にある。2019年7月3日に不正利用が発覚したセブンペイでは、発覚翌日に緊急記者会見を開いたものの、当時の社長は「詳細な原因を調査中」として内容を明らかにすることができなかった。

 一方で、東証の記者会見では、1日の7時4分に障害を検知してから市場が開く直前の8時54分に売買停止を決定。そこからわずか7時間36分後の16時30分に会見を実施し、原因が共有ディスク1号機のメモリ故障で、故障に基づく1号機から2号機への切り替え処理(フェイルオーバー)が実施されなかった点を精緻に説明していた。

障害原因の概要(東証資料より)

 なお、テストでは実施できていたフェイルオーバーの処理が今回成功しなかった点については、富士通製品部で解析する必要があったため、当時の段階では「判明していない」という回答となった。しかし東京証券取引所は、あの時点で確認可能な点は全て究明した上で会見に臨んでいたことがその事実からも伺える。

 本来、このようなシステム障害時には、事業継続計画(BCP)に基づき、経営陣への情報連携や障害対応を実施することとなる。今回の場合、準備時間を除けば、東証はわずか6時間程度の時間的猶予で経営陣に正確な情報を連携し、会見に臨んだと考えられる。

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