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» 2020年10月09日 07時00分 公開

全てのビジネスパーソンが、東証の“完璧すぎる記者会見”を見るべき理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

[古田拓也,ITmedia]
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「責任はベンダーではなく東証にあり」の精神

 今回障害が発生したハードウェアおよび周辺のシステムに関しては、共有ディスク装置に存在する切り替え装置を含め、全体として富士通製であったことが分かった。そのためベンダーである富士通への「責任追及」について、記者から質問が寄せられた。

 しかし、この点については宮原社長が「市場運営者としての責任は私共に全面的にある」と回答し、その後、横山CIO(最高情報責任者)に「富士通への損害賠償請求可能性」について質問が寄せられた際にも、同氏が宮原社長に目配せしたうえで、宮原社長が「損害賠償という点では現時点では考えておりません」と回答した。

 本件のようなシステム障害について、東証がベンダーへ責任を転嫁することなく、自社の責任であるとした潔いスタンスは称えられてしかるべきだ。これは発注者責任ないし注文者責任といわれるものだが、東証のようにベンダーを一切とがめることなく、「責任は私共に全面的にある」と踏み込んで明言する姿勢もまれであり、誠実さが際立った場面だ。

 営利企業でありながら公益性の高い事業を運営する日本取引所グループと、その傘下にある東京証券取引所。市場運営を一手に担う重責を負っているプロ精神を含ませた宮原社長の回答も、聞き手側の評価を変えた場面の1つであるといえる。

経営陣の連携プレーにも注目

 もう一点、本会見が優れているポイントを挙げるとすれば、それは、経営陣各氏が、回答すべき質問および役回りを正確に理解していた点だろう。記者会見の各氏の発言回数を確認すると、横山CIOが32回と最多で、次いで川井執行役員が24回、田村部長が2回で、宮原社長は15回となっていた。今回の事例がシステム障害であったこともあり、システム担当役員の横山氏に状況説明や質疑応答の機会が集中したかたちとなる。

 次に回数が多かった川井執行役員は、システム障害が発覚してから売買停止という判断を下した経緯や背景というビジネス面での説明責任を果たす形となった。田村氏は、本件の取引面での影響等について、そして宮原社長は経営面において説明責任を果たす形となっていた。このように、各出席者が明確に役割分担を行い、記者からの質問に回答が被ったり、全員が返答に窮したりしてしまう場面がみられなかった点が、聞き手に一種の安心感を覚えさせる要因となった。

 経営者の立場にある各人物が、自身の分野について記者からの舌峰鋭い追及に対して理路整然と回答する様子は、東京証券取引所が高い業務理解を持つ経営陣によって経営されていることを示唆するものであった。

 今回の会見は1時間40分程度でYouTube等で配信されているが、全てのビジネスパーソンにとってぜひとも視聴しておきたいビジネス教材といっても過言ではない。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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