「オレは絶対に悪くない!」という“他責おじさん”が、なぜ出世するのかスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2020年10月13日 09時22分 公開
[窪田順生ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5|6       

トントン拍子で出世した「他責おじさん」

 1953年に東大を卒業して、通産省工業技術院に入った飯塚被告の上司や先輩には、このような「戦争帰りの他責おじさん」がたくさんいたのである。彼らに師事し、彼らの人事評価を受けて出世した飯塚被告が「他責おじさん」になっていくのは当然なのだ。

 なんでもかんでも旧日本軍に結びつけるなという批判もあろうが、世界的に見ても、軍隊組織は「他責おじさん」の“生産地”になりやすい。組織の命令に従うことが正義なので「オレは悪くない」という考えに陥りやすいからだ。その分かりやすいケースが、世界で最も有名で、最も悪名高い「他責おじさん」である、ナチス親衛隊国家保安本部のユダヤ人課課長だったアドルフ・アイヒマンだ。

 戦後、ユダヤ人の強制収容や大量虐殺の指揮的な役割を果たしたと裁判にかけられたアイヒマンは、自分はあくまで命令に従っただけで、自分の手でユダヤ人を1人も殺してないと釈明し、悪いのは命令を下したナチスであって、自身については「無罪」を主張した。彼も飯塚被告と同じく、こうやって責任を誰かに押しつけることで、組織の中でトントン拍子で出世をした「他責おじさん」だったのだ。

 ナチスに象徴されるファシズムを研究していた若き日のP・F・ドラッカーは、組織がファシズムに陥らないためには、外の世界から情報を得て学習をすること、つまりフィードバックが必要だという結論に至った。ナチスがフィードバックなき組織であることに異論を挟む者はいないだろうが、言われてみればわれらが旧日本軍もフィードバックができていたとは言い難い。参謀本部の暴走を、外部から評価・監査できていなかったのは明らかだ。

 「ウチの上司、絶対に自分の間違いを認めないんだよ」なんて愚痴をこぼしているあなたの会社、実は古い昭和のノリや、ワンマン社長などの影響で、「フィードバックのない組織」なのかもしれない。そのような意味で「他責おじさん」というのは、実はその組織がいかにヤバいのかを教えてくれるバロメーターなのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


前のページへ 1|2|3|4|5|6       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.