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» 2020年10月16日 08時00分 公開

日本企業におけるグループ経営:無自覚なグループ経営は、もはや続けられない 転換点で、人事が果たすべき役割は? (1/2)

「日本企業のグループ経営は独特」と、グループ経営について研究する東京都立大学教授の松田千恵子氏は指摘する。この独特のグループ経営は、どのように育まれてきたのか。

[リクルートワークス研究所]
photo 松田千恵子氏(東京都立大学 経済経営学部 経済経営学科 教授)

 「日本企業のグループ経営は独特」と、グループ経営について研究する東京都立大学教授の松田千恵子氏は指摘する。「事業や機能の分社化、新規事業の子会社化、M&Aなどによって、1つのグループのなかに多くの子会社が存在すること、そして、1つのグループのなかに多業種がひしめく多角化経営をする企業が多いのが特徴です」(松田氏)。

 この独特のグループ経営は、どのように育まれてきたのか。「そもそも、“グループ経営”とは日本特有の言葉です」(松田氏)。欧米の会計ルールでは子会社・関連会社を“企業団体 ”として連結決算を行い、業績を一塊で見るのが当たり前で、子会社であっても組織の一部と見なされる。

 「ところが日本企業では、1996年まで親、子、関連会社の業績を別々に管理する個別決算が行われてきたため、親会社、子会社の線引きが明確です。だからこそ、個別の“リーガルエンティティ(法人)”ではなくグループ全体を示すときの名称として、“グループ経営 ”という言葉を使うようになったのです」(松田氏)

 また、「戦前の財閥制度の名残りという背景もある」(松田氏)という。「大手企業の名を社名に冠することにあまり違和感がありません。戦後の経済成長のプロセスで、稼いだ利益を他事業に投資したり、企業を買収したり、新規事業を分社化して子会社化したり、本社の肥大化を防ぐために販売や製造などの機能を分社化したり、ということを積極的に行ってきた結果です」(松田氏)

リクルートワークス研究所『Works』

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 『Works』は「人事が変われば、社会が変わる」を提唱する人事プロフェッショナルのための研究雑誌です。

               

 本記事は『Works』162号(2020年10月発行)「日本企業におけるグループ経営 “親”と“子”の関係の特徴とは」より「日本企業のグループ経営の特徴はどのように育まれてきたのか」を一部編集の上、転載したものです。


無自覚なグループ経営はもはや続けられない

 また、多角化については、「日本企業では“メインバンクによるガバナンス”が一般的だったこと」を松田氏は理由に挙げる。「メインバンクによるガバナンスとは、すなわち“債権者ガバナンス”です。銀行は債権者として企業にお金を貸す契約をします。そのお金が決められた日に戻ってくることを最も重視する、という債権者のメンタリティにおいては、グループ経営は都合がいいのです」(松田氏)。

 例えば、A社、B社、C社の3つの企業を傘下とする会社にお金を貸したとき、A社が業績不振であっても、異業種のB社の業績がよければいい、あるいはまた別業種のC社の資産を担保に取ることもできる。一方、欧米では基本的に株主による“エクイティガバナンス”が一般的だ。

 「株主は、契約に依拠するのではなく、将来の業績向上からリターンを得ます。そのために自らの手で、例えば食品業界50%、不動産で30%、金融に20%というようなポートフォリオを組みたいと考えます。しかし、投資先の企業が多角化すると、ポートフォリオのバランスが崩れてしまう。そのため、株主というものは専業企業を好みます。事業を多角化しようとすると、株主から否定的に見られることもあります」(松田氏)

 近年は、グローバル化の影響で、日本でもエクイティガバナンスが主流になり、「『専業に注力せよ』という圧力をかけてくる株主も多くなってきた」(松田氏)という。経済産業省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月)や「事業再編実務指針」(2020年7月)にあるように、日本企業に効率的なグループ経営を求める声は多い。「歴史的背景のなかで “グループ経営文化 ”が定着した日本ですが、ここにきて、無自覚にはそれを続けられなくなってきました」(松田氏)

 今後、日本企業がグループ経営を続けていこうとするならば、エクイティガバナンスにおける厳しい目線のなかで、グループ経営のメリットを実践していくしかない。「メリットは2つ。1つは、グループ内のシナジーを出し続けることです」(松田氏)

シナジーと魅力的なポートフォリオ組成を支援

 特にM&Aなどの局面では、必ずシナジーという言葉が飛び出すが、「実際に出すことは非常に難しいものという前提に立ったほうがいい」と、松田氏は言う。「シナジーがあると言うだけではまず実現しません。具体的にそれが何かを特定し、定量化してこそはじめて可能になります。シナジーにはダウンサイドシナジーとアップサイドシナジーがあります」(松田氏)。

 ダウンサイドシナジーは、グループ会社間で重複している機能の統合などによる効率化だ。一方、アップサイドシナジーは、例えばA社のテクノロジーとB社の開発力のシナジーによって、もっと素晴らしい商品が生まれて売り上げや利益が伸びる、というようなものである。また、買収を成功させる力や新しく事業を生み出す力なども、グループ経営のなかでの重要なアップサイドシナジーだといえよう。

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