無自覚なグループ経営は、もはや続けられない 転換点で、人事が果たすべき役割は?日本企業におけるグループ経営(2/2 ページ)

» 2020年10月16日 08時00分 公開
[リクルートワークス研究所]
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 もう1つのメリットは、巷(ちまた)の投資家よりも効果的なポートフォリオを自社でつくって運用できることだ。「そのためには投資家的な能力を本社が磨くことが求められますが、グループ経営を標榜(ひょうぼう)しつつも、傘下の事業ポートフォリオをきちんと運営できている本社は少ない。グループ内投資家としての能力や機能を定義し、発揮することができていないのです」(松田氏)

 シナジーを生み出し、巧みなポートフォリオを組むために、人事も果たすべき役割がある。ダウンサイドシナジーは、仕組みやシステムの共通化などによる効率化によって実現できる。アップサイドシナジーには、グループならではの人的資源投資や人材マネジメントがある。グループ内での人事交流や適材適所によって、人を育て、能力を発揮してもらい、グループ全体の成長に寄与することが求められる。魅力的なポートフォリオを組成するには、社会や経済、技術の変化に対応すべきだが、人事には生み出した新たな事業に優れた人材をアサインし、そこで働く人のモチベーションを高め、成長に導いていく役割がある。

 経営とは何か、という松田氏の定義は、「やりたいこと」(=事業)を行うにあたって、「先立つもの」(=財務)をどう工面し、「取り組む人」(=組織や人材)にどう頑張ってもらうか、それらの間の相反する利害を踏まえてどのように意思決定を行っていくか、だという。

 「日本企業は長い間、組織や人材に関しては、日本型雇用システムという優秀な内部労働市場に依存してきました。しかし、人材獲得競争も熾烈(しれつ)となり、労働市場はオープン化し、不安定なものとなってきました。グループ全体の人材に投資し、人の価値を最大化するという本来の人事の仕事に立ち返ることこそ、人事に求められている役割だと思います」(松田氏)

  本記事は『Works』162号(2020年10月発行)「日本企業におけるグループ経営 “親”と“子”の関係の特徴とは」より「日本企業のグループ経営の特徴はどのように育まれてきたのか」を一部編集の上、転載したものです。

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