自宅のパソコンからオフィスのパソコンを簡単・安全に使える、無償のシステム――テレワークの導入を検討している経営者やIT部門にとって夢のようなシステムが、緊急事態宣言下の4月21日に登場した。NTT東日本が開発したシンクライアント型VPN「シン・テレワークシステム」だ。
開発に携わった登大遊さん(NTT東日本 特殊局 特殊局員)は4月1日、同社に非常勤社員として入社。シン・テレワークシステムは、4月6日から社内調整を始め、わずか2週間後の21日にはリリース。10月22日時点で8万5000人以上が利用するほど好評だ。
なぜ、このようなシステムを短期間で開発できたのか。家電・ITの見本市「CEATEC 2020」の講演で、登さんが秘密を語った。
登さんは「2週間で全てをプログラミングをしたわけではなく、過去の蓄積を元に作っています」と話す。
シン・テレワークシステムのベースには、筑波大学の学生時代から自ら研究環境を作り、探求してきた成果があるという。
登さんは大学1年生だった2003年に、IPA(情報処理推進機構)の支援でVPNの開発を始めた。開発した「SoftEther VPN」はシン・テレワークシステムの基礎になっているもので、現在も世界で480万人が利用している。
VPNの開発体験から「こういうことをどんどんやろう。筑波大の中で自由に開発して遊べる環境を作ろうと、大学内の物品廃棄場からルーターやサーバを調達し、実験用ネットワークを構築した」という登さん。その後も大学の内外で、さまざまなシステムの開発に取り組んだ。
外国政府の検閲用ファイアウォールに対抗するための分散システムを構築したり、NTT東日本の設備を研究して独自のネットワークを構築したり、さらには大学で飼っていたハムスターを実験動物だと言い張るため、グローバルIPを取得してハムスターの様子をインターネット中継したり──と、取り組みは多岐にわたる。登さんはそれぞれの経験から得た学びを生かして、シン・テレワークシステムはできていると説明する。
登さんは、日本では海外のサービスを輸入し、組み合わせて使っていることが多いと指摘する。今後の成長のためには、既存の物を組み合わせて使うのではなく、新しいクラウドサービスやインターネットシステムを作っていくこと、そして若い研究者がそういったことに自由に取り組める環境を提供することが大切だと話した。
「大学の学生的精神を思い出して、高度なICT人材が想像力を発揮できるような環境を用意できるといい」と登さんは話す。これまで世界で使われてきた多くのシステムが事業計画や経営とは関係のない、自由な開発環境から生まれてきたと指摘する。
「今うまくいってるか、説明しろ」「何年以内にできるんだ」「何の役に立つのか」といった問い詰めはせずに、プログラミングを自由にできる環境を作ること、気兼ねなくいじれるネットワーク環境を作ることが重要だと強調した。
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