1飲食店が多数の専門店を出すゴーストレストラン、「ズル」でなく業界を変革する訳“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)

» 2020年10月27日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

「仮想飲食店」激増の未来

 だが専門店かそうでないのかを決めるのは法律ではなく、お店自身であり、それを判断するのは顧客である。市場というのはそういうものであり、最終的にこの仮想店舗が専門店として優秀なのかは、顧客が決めるしかないだろう。専門店の名前にふさわしくない料理を提供していれば、いずれ淘汰されるだろうし、顧客が受け入れれば、この形態も成立するとの解釈になる。

 このケースは中小事業者だが、既に大手企業も似たような取り組みを行っている。トリドールホールディングスも出資するゴーストレストラン研究所(東京・港)は、ウーバーイーツや出前館などのプラットフォームを利用して、スープ、ヴィーガン、ジビエなど14の仮想専門店を出店している。

photo 多くの料理の「仮想専門店」を展開するゴーストレストラン研究所(同社の公式サイトから引用)

 厨房は1カ所しかなく、各仮想店舗から注文が入ると、それぞれのメニューに応じて調理が行われる。これまでもセントラルキッチン方式を採用する外食産業は多かったので、複数の仮想店舗における料理を同じ厨房で調理することと、セントラルキッチン方式の境界線は曖昧になる。

 仮想店舗と集中厨房の最大のメリットは何と言ってもコストである。

 各チェーン店のファンの人には申し訳ないが、大規模な外食産業では、味による差別化要因の割合は低く、大抵の場合、立地によって売上高が決まる。要するに多少味が悪くても、立地が良ければ勝つという話であり、このため各社は人通りの多い道路に面した物件にこぞって出店してきた。だが、こうした物件の賃料は驚くほど高い。

 だが、厨房を1カ所に集約し、店舗はすべてネット上ということになると、従来のチェーン店より運営コストを劇的に安くできる。厨房は場所を問わないので、格安な物件に入居できるからだ。

 一部の人はあまり納得しないかもしれないが、デリバリーが進むことには良い面もある。これまで外食産業は、高い賃料をカバーするためメニューのマス化が進み、その結果としてニッチで個性的な店が存続できなくなるという悪循環が生じていた。デリバリーの場合、場所に左右されず、集客はネット上で評判に依存するので、ある意味では本当に「味」で勝負することが可能となる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.