従業員に“報いる”経営で31期連続増収増益 埼玉の「ヤオコー」がコロナ禍でも成長する理由独自の経営哲学(4/5 ページ)

» 2020年10月28日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]

個店経営の本質である従業員への信頼と企業の成長

 ヤオコーでは、従業員満足度を高めるためにさまざまな工夫をしています。そして、それがコロナ下でも伸び続ける同社の軸となっています。そのポイントをいくつ整理してみます。

(1)パートナーも入れる労働組合を結成

 1981年、職場環境を整えるために「全ヤオコー労働組合」を結成しています。当時のヤオコーは埼玉県内に11店舗展開しており、従業員500人ほどの規模でした。この規模で労働組合を作るというのは当時の流通小売業界では珍しかったと思われます。しかも、川野会長(当時社長)からの提案だったそうです。いかに同社が人を大切にしたいと考えていたのかが伝わってきます。さらに、当時としては画期的でしたが、パートナーでも組合員になれる仕組みにしたことも重要です。

 この組合結成時に、同社が組合と決めたことが2つあったそうです。

 1つ目は、月に1回の経営協議会で労使間の本音の話し合いをすること。

 2つ目は、運動会や旅行会を定期的に開いて社員の親睦を深めること。

 これを結成当時から現在まで続けています。また、同社ではパートナーにも夏・冬の賞与を出し、期初見込み利益が確保できれば年度末手当ても支払っています。これが安心して働ける環境につながっているのです。

(2)パートナーも巻き込んだ全員参加の商売

 同社では、パートナーにも積極的に店づくりに関わってもらう工夫をしています。ライフスタイル提案型の店の考え方を、会議や朝礼、社内報やパートナー懇親会などの場で、社長自ら説明するなどして、全社に徹底教育しています。そして、販売計画や発注ミーティングにパートナーの意見を取り入れているのが特徴です。

 さらに、同社ではパートナー社員が成功事例を発表する「感動と笑顔の祭典」を2006年5月から月に1回開催しています。毎回9地区から各1チーム(1部門)を選出し、代表のパートナーが成功事例を発表します。ある回では、店舗のレジリーダーが「笑顔の接客で集客アップ」という発表をしました。このレジ部門では月に1回レジミーティングを実施。アイコンタクト、笑顔、発声などのトレーニングを部門のパートナー全員で行い、その問題点や解決法までパートナーで話し合い、改善につなげたそうです。

 このようなモデルとなる取り組みを表彰し、その内容を映像として記録して全店に配布し、全員がノウハウを学べるような教育環境も整えているのです。非常にきめ細かい売り場づくりをしており、どの店の陳列もきれいなのがヤオコーの特徴です。ここまでの規模の店で、これだけ陳列やディスプレイにこだわっているのはなかなか珍しいことです。

什器エンド、高頻度商品の牛乳もボリューム感を保ちつつ、丁寧に陳列されている(筆者撮影)

 パートナーには店ごと・部門ごとの損益まで分かるようにしています。そして、自ら損益改善案まで考えた上で売り場づくりに取り組む例は数えきれないほどあるそうです。社員だからとかパートだからといった線引きがほとんどないのがヤオコーの強さの秘密です。

 同社は健康経営優良法人2020(ホワイト500)にも認定されており、従業員の健康状態にも気を配っています。店舗での働きにあわせてオリジナルで考案された「ヤオコー体操」や、全員参加でのヤオコー大運動会を実施しています。パートナーまで含めた、健康維持の取り組みを行っています。

1万人規模で行う同社の運動会「スポーツと音楽の祭典」(出所:ヤオコー公式Webサイト

(3)基本的に全て現場に任せるという発想

 ヤオコーはこのようにして全員参加の商売を徹底してきました。同社のコンセプトや商いの考え方から外れない限り、基本的には何をしてもいいというのが経営における最大の特徴です。

 例えば、ある新店で店長に就任する予定の方にお会いした時にも、自分の要望をできるだけ聞いてもらって売り場をつくったという話を聞きました。「近隣に別のヤオコー店舗もあり、競合店も多いので、生鮮食品のコーナーは市場風にして地元野菜もしっかり入れています。そして、バックヤードを広めにとって総菜を強化します」とのこと。そして、その通りの売り場をつくり、見事に繁盛店になっています。店づくりはできるだけ現場の従業員に任せれば任せるほどいいようです。

 

惣菜は出来立てをオープンキッチンで。野菜は市場風に陳列。店が独自に考えていく(撮影:筆者)

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