菅首相の“ケータイ値下げ”は、格安SIM市場の崩壊を招く ドコモにも副作用本田雅一の時事想々(3/6 ページ)

» 2020年10月29日 12時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 原価に対してどう付加価値を載せてビジネスを行うかは、それぞれの事業者が考える課題だが、ものすごくザックリといえば、付加価値を重視したメニューを用意する事業者もあれば、シンプルに原価に近い事業者もある。後者のスタイルは、格安SIMともいわれるデータ通信専用SIMなどに見られることが多い。

 とはいえ、格安SIMの原価は変わらない。定められた手法で計算された原価に基づき、仕入れた通信帯域を再販売する際に、なるべくコストが安くなるようにしているからこそ実現したのが、格安SIMなのだから。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 同様に限界以下に下げられたサービスならば、消費者が「通信速度が遅く使い物にならない!」と嘆くことになるのも当たり前だ。原価が同じ(あるいは同レベル)ならば、安くするには帯域を多くのユーザーで分かち合う必要がある。

 このことはMVNOではなく、実際に回線を持っている携帯電話事業者も同じだ。携帯電話事業者が有利なのは、MVNOが調達する原価計算に用いる数字が“少し前”のものであること。通信の原価は落ちていくものなので、携帯電話事業者は本質的に有利なビジネスを進められる。

 が、そこで価格を下げないのは、付加価値の高いサービスを志向することで、ただのドカン屋以上の存在になるために他ならない。ドカンを更新するための投資リスクを、携帯電話事業者は負っているので、それ自身は批判対象とはいえない。

 ここで言いたいのは、携帯電話事業者は本質的にドカンをより高く売るために付加価値の高いビジネスを志向していることだ。

 そんな携帯電話事業者に対して、通信料金の引き下げの圧力が強まれば、どうしてもよりシンプルなサービスへと向かわざるを得ない。ソフトバンクのY!mobile、KDDIのUQモバイルのように、サブブランドの存在が重要になってくると言い換えてもいい。

 何しろ原価は変わらないのだから、原価以外のところでどう勝負するかという話になるのは間違いなく、そうするとメインブランド以外で、メインブランドとは異なる商品設計とすることで価格を下げることになる。

 しかし、この考え方には既視感がある。

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