在宅勤務なら大丈夫でしょ! 「100万人の引きこもり」を活用できるのかスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2020年11月17日 09時38分 公開
[窪田順生ITmedia]

大人側が決めた意味のないルール

 分かりやすいのが、中国の上山下郷運動だ。文化大革命時代、毛沢東の指導によって都市部の若者が農村へ送り込まれた。農村で肉体労働をすることで、社会主義思想を育み、都市と農村の格差を是正できるという触れ込みで、一粒で二度おいしい社会実験だった。

 が、結果は散々で、これによって中国の教育レベルは低下し、経済も打撃を受けた。若者たちの中には都会に戻せと抗議運動をする者たちも出た。自由意志をもった人間を「将棋の駒」のように国家の都合で動かすと、社会の分断が増すという非常に分かりやすい事例である。

 では、100万人近い「引きこもり」と呼ばれる人材をどうすれば活用できるのか。筆者は「引きこもり」だからこんな仕事をするべきとか、「引きこもり」という状態を生かしてこんな役割を果たせばいいのでは、というような考え方をまず止めるべきではないかと考えている。

 先ほどから言っているように彼らは「引きこもり」などではなく、さまざまな理由で社会に参加することに嫌気がさしているだけの「普通の人」である。ということは、彼らが嫌がっているような社会の問題を改善するだけで、「普通の人」として社会に参加してくれるはずなのだ。

 その問題とは何か。筆者はまず「教育」だと思っている。18年のOECD学習到達度調査(PISA)では、日本の15歳は「生きる意味を感じる」という指標がOECDの中で最低。生活満足度も4番目に低い。

 なぜこんなことになるのかというと、大人側が決めた意味のないルールでがんじがらめに縛られ、そこから外れると袋叩きにされることを、子どものときから幾度となく繰り返されているからだ。

 例えば、11月13日、佐賀県弁護士会はブラック校則について独自に調べた結果を公表した。「左右非対称の髪型やツーブロックは禁止」「靴は白、中敷は白」というおなじみの謎ルールはもちろん、耳を疑うのは「下着は白」というルールだ。しかも、女子生徒の肩紐を出させてチェックする実態も浮かび上がったという。

 日本の教育現場ではルールに外れると、「問題児」扱いになる。こんな刑務所やナチスの収容所と変わらない仕打ちを受ければ、生きる意味を見失う子どもが増えてもおかしくない。幼いころから自分の頭で「このルールってヘンじゃない?」と考えることを禁じられているせいで、自分の頭で「生きる意味」も考えられなくなってしまうのだ。

 こういう多様性を認めない教育を受けた子どもが社会人になって、多様性を認めない社会をつくり出している。そこに対して強烈な嫌悪感を抱くのは、人として極めてノーマルな反応だが、多様性を認めない方がマジョリティなので、気が付けば「引きこもり」などと狂人扱いされてしまっているのだ。

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