JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」の“短所を生かす”工夫 都市間移動を楽しくする仕掛けとは杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2020年11月28日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

車窓よりも“くつろげる空間”を重視

 全国で導入される観光列車、その主な要素は「特別な車窓」「特別な設備」「特別な食事」だろう。しかし、JR九州が新たに走らせる観光列車「36ぷらす3」に試乗してみると、極端に窓が小さく、車窓を楽しむ要素が小さい。デザイナー水戸岡鋭治氏の得意技「和の空間」のコンセプトをさらに進めた内装になっている。

内装は和の空間となっている。荷棚はラッチ式で雰囲気を保つ
小さな窓は半分しか開かない

 小さい窓には理由がある。改造の元になった787系電車はもともと窓が小さい。787系電車は都市間連絡のビジネス特急を意図して作られたから、各座席に窓1つという新幹線車両に似た窓配置だった。観光列車改造にあたり、窓を拡大するという大工事は行わなかった。窓を広くすれば、車体の構造計算も全て変わり、補強が必要になる。そこまでの予算はかけられない。

 その小さな窓の内側に左右に開く障子の引き戸をしつらえたから、窓の開口部は半分になった。これは座席の窓の話で、マルチカーなど共有スペースの車両では、さらに上下に格子をしつらえたから、景色の見える面積は4分の1になっている。私はまず、この窓の小型化に戸惑った。そしてしばらく考えた。結論は「景色はないものとして楽しむ」だった。

マルチカーの窓は格子入りになっている

 そうなると室内のしつらえに注目だ。1号車と6号車は畳敷きで、デッキから入ると上がりかまちと靴箱がある。靴のない空間はとても気持ちよくくつろげる。窓なんか小さくたって良いじゃないか。居心地の良い空間に好きな飲み物と食事があればじゅうぶん。例えるならば、ここは茶室である。客人との対話を楽しみ、ゆったりと過ごす場所だ。

畳敷き車両の座席
靴を脱いで畳の触感を楽しんでもらう座席になっている

 そもそも「36ぷらす3」は都市間を走る幹線の列車である。ローカル線と違い、人口密度の高い路線だ。車窓からの景色も自然の絶景より人家やビルが多い。反比例して自然の景観、名所は少ない。窓を開けたところでたいした景色はない。ならばいっそ、景色を楽しむ要素は割り切って「車内のくつろぎ、もてなしを楽しんでもらおう」だ。

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