“鬼滅缶”で大成長? 3週間で5000万本を売ったダイドーから学ぶ「コラボ成功のヒケツ」古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年12月04日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
前のページへ 1|2       

コラボ真の成功は「リピーターの獲得」にあり?

 同社が公表したコーヒー飲料の11月分の月次売上高を確認すると、自販機で前年比11.2%増、流通チャネルでは6.8%増にとどまっており、その売り上げが急減速している。鬼滅コラボによる売上増にブレーキがかかったことを嫌気した結果、市場ではこの度の好決算を「持続的な成長」というよりも「一時的な要因」と認識されてしまった。そのため株が手放されるという動きとなったようだ。

 現在も“鬼滅缶”の缶コーヒーは販売されているはずだが、なぜ11月の売り上げが伸び悩んでしまったのだろうか。その要因のひとつとしては、鬼滅缶の需要が1カ月程度であらかた吸収されてしまったことにあるのかもしれない。

 鬼滅缶のデザインは合計で28種あるが、熱狂的なファンは“大人買い”して一気に全種類を買いそろえても、他のアニメグッズの大人買いと比較すれば懐がそれほど傷まない金額である。また、そこまでの熱量がないファン層であっても、数種類のお気に入りデザインを購入すれば満足しており、追加の購入につながりにくくなっていることが伸び悩みの要因とみられる。

28種類の鬼滅缶は大人買いにはつながっても、リピーター化できたか?(DyDo決算説明資料より)

 むしろ、鬼滅コラボで増加した売上高が維持できなかったということは、缶コーヒーそれ自体にリピートを促す力がないという点で深刻にも思えそうだ。しかし、9月度に大きく落ち込んだ前年比売上からすれば、現在の水準でも約50ポイント増加しているため、コラボがリピートをもたらさなかったと見るのも早計である。ただし、市場の期待がやや先行しすぎたといえるだろう。

DyDoの真の狙いは若年層の取り込み?

 DyDoで缶コーヒー事業を展開するダイドードリンコでは、16年に若年層をターゲットとした「ダイドーブレンド うまみブレンド」を展開。発売に際して告知されたコメントでは、カフェやカウンターでコーヒーを購入する「若年層(20~30代)」の獲得を目指している旨が添えられており、同社の缶コーヒーにおける主力層の40代〜50代からの若返りを目指す戦略が垣間見えた。DyDoの今回の鬼滅コラボでも、このような若年顧客の取り込みを目論んでおり、戦略としては一貫している。

 今回のコラボは、本来のメイン顧客層とは世代を異にする潜在的な顧客層に缶コーヒーという商品をプロモーションする形だ。これまでなかった若年層リピーターの獲得を目指すという、やや難易度の高い設計のコラボ企画である。その真の成果は、この次に公表される決算状況を確認していくことが求められてくるだろう。

 足元では、ユニクロが第二弾の鬼滅コラボTシャツを11月下旬から発売しており、ヤマザキ製パンでは鬼滅の刃のキャラクターをあしらったランチパックも展開するなど、鬼滅コラボの恩恵を受ける企業が今後も発生してくると考えられる。

 市場では、これらの銘柄を「鬼滅銘柄」と呼び、既にいくつかの銘柄は物色が進んでいる状況だ。一部ではDyDoと同じく、決算を待たずして期待値ベースでの株価上昇が見られているが、決算がたとえ好調でも、期待値が高まりすぎている可能性もある。

 コラボによる成長が持続可能なものかどうかについては、コラボ期間だけでなく、コラボによる購買行動が一巡したタイミングの成長率がどの水準で維持されているか、つまり「このコラボ企画で新規のリピーターがどれくらい増えたか」を確認していくことが重要だ。

 コラボ企画が真の意味で「成功」となるには、コラボをきっかけに商品を初めて購入した顧客をいかにリピーターできるかにかかっているのだ。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

Twitterはこちら


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.