ディズニー決算から考える、厚労省発表「コロナ解雇7万人」が“それどころではない”ワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2020年11月13日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 厚生労働省は6日、コロナ禍が関連した解雇・雇い止めが今年2月からの累計で7万人を超えたことを明らかにした。解雇ペースは緩やかになっているというが、これほどまでに影響は小さいと本当にいえるのだろうか。

 実際のところ、厚労省の統計はコロナ関連の解雇・雇い止め全ての実態を把握しきれていないだけでなく、「解雇・雇い止めにあたらないものの、退職者・失業者の増加をもたらす失業」も対象外となっている。自主都合で退職する選択をとった労働者や、グループ会社への出向のような事例は対象外なのだ。

 さらに、新卒社員の募集停止のように、将来的な労働需要の抑制によって減少した雇用についてもカウントされない。そのため、厚労省の発表における7万人という数字は実態でいえば氷山の一角といわざるを得ないだろう。

 そこで、コロナ禍の労働市場に対する影響を確認したい。まずは、この上半期に休園で大きな影響を受けた「ディズニーランド」等を運営するオリエンタルランドの決算から、同社で働く社員の雇用事情を確認していこう。

東京ディズニーリゾート(オリエンタルランドWebより)

ディズニー決算からみる、統計にあらわれない“激変”

 同社は6月末までの臨時休園が解除されてもなお、安全に配慮して入園制限などを実施していた。その結果、入園者数は前年比で60%減程度と低調で推移している状況だ。売上高は前年同期比で76.7%減の591億円、営業利益は241億円の赤字に転落した。

 人件費の内訳を確認すると、同社は準社員人件費を半期で39億円、正社員人件費を36億円削減していた。冬の賞与7割カット及び、ダンサー等準社員約1000人への配置転換・退職要請が人件費カットの主な内容だ。

 下半期には開業による需要増に対応するため、正社員に対する人件費は20億円増加する見込みである。その反面、準社員に対してはワークシェアなどの効率化を継続し、5億円程度の人件費を削る計画である。

 オリエンタルランドはあくまで「解雇」ではなく、配置転換や報酬の減額という「雇用の維持」を主軸に置いている。そのため、仮に会社から提示された報酬の条件や、配置転換先がこれまでの経験と比較して過剰に不利なものであれば、自主都合として退職せざるを得ない。

 同社は、準社員の新規採用停止やキャストの配置調整、休業手当終了等の施策により、通期で310億円程度の支出抑制を実施する計画だ。同社はこれを「痛みを伴う人事施策」と表現し、役員報酬も減額することで株主や社内にも理解を求めるかたちとなる。しかし、上記の施策の方針を鑑みれば、「痛み」という言葉は特に準社員に向けられたものであるといえるのではないだろうか。

 典型的な解雇・雇い止めに当たらないものの、実質的にはやりたい仕事とは別の配置をされたり、生活水準を切り下げたりせざるを得ない給与カット等の要因で退職を余儀なくされるという事例は少なくない。統計にあらわれてこないコロナの労働市場に関する影響が、私たちの意識と厚労省の「コロナ解雇7万人」というギャップを生んでいるとみられる。

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