同店の厨房は外にあるため、調理の過程を全て見ることができる。
オープン1時間前、シェフのジェイ・ファイが食材を厳しくチェックしていた。そして、スタッフに細かい指示を出している。まるで、高級店の厨房のようだ。
私は、ジェイ・ファイに対して「一緒に写真を撮ってもいいですか」と尋ねた。すると、彼女はゴーグルを外し、笑顔で対応してくれた。その時気付いたのだが、ゴーグルを着用していてもしっかりと化粧をしていた。午後3時のオープン直前、お店の外で待ち構えている人たちから歓声が起こった。まるで人気アーティストのライブの幕が開く瞬間のようだった。そして、ジェイ・ファイはフライパンを振り始めた。
集中している様子からは、殺気を感じるほどだった。彼女は、全く休憩することなく鍋を振り続けていた(時々、口に水を含める程度)。待っているわれわれでさえ、水とビールを飲み続けなければまいってしまうほど暑かった。
われわれは看板メニューである蟹オムレツ、トムヤムクン(汁ありと汁なし両方)、フライドライスをセレクトした。出された料理のクオリティーの高さにはうなるばかりだった。
食事を終え、鍋を振り続けるジェイ・ファイに「ありがとう。また会いましょう」と声をかけると、笑顔を返してくれた。その時、なぜか感動して涙がにじんだことをおぼえている。レストランで感動して涙を流したのは、初めてである。
われわれは、ジェイ・ファイを楽しむためだけに1日を費やした。そのことに後悔はない。午前10時に名前を書き、食事を終えた午後5時までの全てがジェイ・ファイを味わう「カスタマーエクスペリエンス」といえるだろう。
バンコクに滞在中、現地のシェフらと意見交換をした。タイには世界トップクラスのレストランがいくつも存在する。政府が、観光のコンテンツとして「食」を重視しており、ミシュランの誘致にも一役買ったという話を聞いた。
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