地方私鉄や第三セクターのビジネスモデル探訪車も売れば石も売る(2/4 ページ)

» 2020年12月14日 07時43分 公開
[小林拓矢ITmedia]

 鉄道事業の常として、バス事業も並行して経営する企業は多い。静岡鉄道も子会社の「静鉄ジャストライン」などが、静岡市を中心に広大なバス路線網を持っている。特に静岡市内のバス路線はたいへん充実しており、市の中心部やその周辺で暮らすにはバスと鉄道だけで生活できる、という印象さえ抱かせるほどである。

 ちなみに「鉄道」を名乗っていながらバスしか運行していない会社もあるが、それはもともと鉄道事業とバス事業をやっていたもののバス事業だけになったものである。

 静岡駅に東海道新幹線「のぞみ」は停車せずとも、静岡市は静岡県の県庁所在地、しかも政令指定都市であり、およそ69万人の人口がいる。そんな地域の状況が、充実した公共交通を成り立たせるのだ。

 ところが、である。静岡鉄道はグループ内に自動車販売店を持っている。もともと、トヨタ自動車は地域の中心となる企業に出資して販売店を経営してもらうというスタイルを採用しているため、なにも鉄道利用と競合しかねない自動車販売店をわざわざ運営しなくてよいのにとさえ思う。さらには、鉄道やバスに乗らなくなる人を生み出す、自動車教習所の運営まで行っている。そのほか、注文住宅の建設を行う「静鉄ホームズ」や、介護事業、葬祭事業なども手掛けている。

 さらにこれらの事業は、静岡県駿河地方でしか基本的に行われていない。こうなると静岡鉄道の実態は、鉄道を中心とした企業グループというよりも、地域を支える総合企業グループといえるのではないだろうか。

 似たような形態の鉄道グループ企業として、同じ静岡県の浜松市にある遠州鉄道がある。こちらもトヨタ系の自動車ディーラーを経営し、自動車教習所も保有、ガソリンスタンドや介護事業も行っている。電車も高頻度運転であり、車両も自社専用の車両だ。バスも充実している。なお浜松市も政令指定都市であり、人口はおよそ79万人。浜松駅に「のぞみ」が停車しないことまで共通している。

 いずれも鉄道会社というのは名目的な存在で、実際には地域の顔役企業として存在している、その看板として「鉄道」の名前を有している、という見方が正しいだろう。

 しかし「鉄道」があるからこそ、静岡鉄道は信頼されるのだ。

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