「残業しない」「ノルマを設けない」「値引きをしない」「社内行事をしない」――。他社とは真逆の取り組みともいえる「しない経営」を実践し、10年連続で増収、最高益を更新したワークマン。記事の前編では4000億円という空白市場をいかにして発見したのかを同社の土屋哲雄専務に聞いた(ワークマン土屋哲雄専務に聞く 「4000億円の空白市場」をいかにして切り開いたのか参照)。
後編では、土屋専務が社員の平均年収を、定期昇給分を除いて100万円以上アップさせた理由を聞く。一見すると社員の給与を上げる取り組みや先述した「しない経営」は、会社の経営を上向かせるものではないようにも思える。
だが土屋専務は独自の方法を貫き、会社の業績を向上させ続けてきた。その秘密は、専務が提唱し実践してきた、Excel(エクセル)によって現場の数値やデータを分析して全社員が平等に議論できるように促す「エクセル経営」にある。取り組みの本質や社員の自発性を引き出すマネジメント方法を掘り下げた。
ワークマンでは店舗の95%をフランチャイズチェーン(FC)によって運営している。帝国データバンクによれば、アパレル業界でのコロナ関連倒産は105件(2021年1月5日時点)と、飲食業界(133件)に次ぐ多さだ。コロナ禍という逆境にもかかわらず、勝ち続ける同社の経営手法に迫る。
――入社後に取り組んだ「エクセル経営」とはどんな取り組みで何を意図したものでしたか?
まず前提としてエクセル経営とは「データを駆使して儲(もう)けよう」という話ではありません。社員全員が経験や勘ではなくデータを活用し現場で判断をする風土を作るという組織論なのです。
従来の経営では、三カ年計画など経営陣が決めた計画を現場まで落としていました。しかし新型コロナウイルスの感染が拡大している状況では、先の見通しが立ちにくく、現場から遠い人たちが作った計画は机上の空論になってしまう。そこで、現場でデータを分析して改革した結果を吸い上げ、本部が全社で標準化するかどうかを判断することが、重要になってきました。
例えば、「今まで売れていたものが売れなくなった」「逆に急に売れ出した商品がある」「今まで買っていた層とは別の層が商品を買うようになった」など、何かしらの現場での異変が発生します。その変化を、現場がデータを見ることによっていち早く察知し、検証して調べる。結果を見ることで気付きを得たり仮説を立てたりして本部へ意見を上げます。
――チェーンストアは業務を標準化して、本部の決めた方針を現場に浸透させていくのがスタンダードだと思います。専務のやり方はどちらかといえば現場からのボトムアップにも近く、チェーンストアの一般的な理論とは異なるようにも見えますね。
ワークマンももともとは業務を標準化し、規律が厳しい会社でした。本部がマニュアルを作り、それぞれの店舗に浸透させていました。だからこそ、私は「データの分析結果が検証されれば、標準を変えてよい」と社員に強調しました。
一方で全てを標準化しない訳ではありません。基本的には標準化をして、決められたことをする。しかし、今回の新型コロナのような外的要因もあれば、突然とある商品が売れ始めるなど状況は毎日変わっていきます。そういった状況に合わせて「ルールを書き換えるのが社員の役割」だとしています。
規律やコミュニケーションを重視していますから、決してルールを破っていい訳ではありません。然るべき異議申し立てをした上で変えることはよしとしました。現場の社員からデータをもとに上げられた声に対して、マネジャーが地域全体で変えるべきか、個別の店舗で変えるべきかを判断します。
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