SaaS企業の時価総額はなぜ高いのか?(2/5 ページ)

» 2021年01月26日 05時00分 公開
[早船明夫ITmedia]

「SaaSスタートアップ」の上場が始まる - 2016年〜

 15年までは自己資本を中心に利益を積み重ねる形で成長を遂げる企業が多かった中、VCからの資金調達を受け成長を遂げたユーザベース、マネーフォワードがそれぞれ16年、17年に上場を果たします。

 特にマネーフォワードについては、数億円規模の赤字に関わらず初値ベース548億円という時価総額でIPOを迎えている点において、象徴的なSaaS IPO案件となりました。

 SaaSは契約に基づいた定常的な収益であるARR、その生涯価値であるLTV、顧客獲得に対する効率性を示すユニットエコノミクスなどの指標によって数値管理が可能となり、将来の業績を予見しやすいとされています(SaaS KPI入門参照)。

 そのため、赤字であっても戦略的に先行投資を行い、収益最大化を優先させることが合理的なビジネスです。

 そのような企業に対してベンチャーキャピタルがリスクマネーを提供し、それが結実してIPOに到達したことは、SaaS企業の発展という意味合いだけでなく、新興市場における赤字上場の在り方に対しても影響を与えたといえます。

「SaaSスタートアップ」の大型化 2019年〜

 19年はSansanが時価総額1000億円を超えるIPOを実施し、20年もWebサイトの解析サービスを提供するプレイドがマザーズにおいて最大のIPOとなるなど、案件の大型化が目立つようになりました。

 この背景には足元の2、3年で、SaaS企業に対する企業価値評価の方法が投資家に定着してきたことが挙げられます。

 具体的には、従来の企業価値評価ではPERが用いることが一般的だったのに対し、SaaS企業への評価については、PSRやEV/売上高などのマルチプル指標が企業比較に用いられるようになりました。

【マルチプル指標】

PER = 時価総額 / 当期純利益

PSR = 時価総額 / 売上高

EV/売上高 = 企業価値 / 売上高

* EV = 時価総額 + 有利子負債 − 現預金同等物


 スタートアップ型のSaaS企業においては収益成長を先行して拡大していくことが求められる中で、「利益ベース」のPERではなく、将来の利益創出の先行指標として「売上ベース」であるPSR(ないしはEV/売上高)などの指標を用いられることが定着していきました。

 SaaS IPO事例が少なかった頃は、「証券会社からPERをベースとした評価があり、適切な企業価値を伝えることに苦労をした」といったSaaS企業の財務担当役員の声も聞かれるなど、市場関係者に対する啓蒙(けいもう)が必要な時期もありましたが、SaaSビジネスへの理解が進むにつれて、黒字を前提としない評価方法に変わりつつあります。

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