一方で労働組合の団体である連合などが懸念を持っているのは、安全性の確保だ。スマホ決済や外貨送金事業者の口座に給与を振り込んだ場合、事業者の倒産などで、給与が受け取れないリスクがあるとされる。
スマホ決済や国外送金を行う事業者の多くは、資金移動業者と呼ばれ登録が必要だ。2020年末時点で80社が登録されている。資金移動業者が預かったお金は、その100%を法務局へ供託するなど、「倒産隔離され100%保全されている」(堀弁護士)。しかし、倒産の際には資金が早期に返済されることが重要になるため、間に保証会社を入れたスキームが検討されている。
また資金決済法が改正され、21年には資金移動業者が3つの類型に分かれる。現行と同じ100万円までの送金が可能な2種に加え、上限額のない1種、5万円までの3種だ。このうち、1種は厳しい滞留制限が課され、移動する資金の額と移動する日が明らかでなくてはならない。また2種でも、「100万円を超える預かりが発生している場合、(送金や決済などの)為替取引に関連するものか確認が必要になる。それが為替取引に関連するものでなかったら、払い出しが必要になる」(堀弁護士)といった制約が課される。こうした仕組みで、事業者の破綻の際にも給与資産が守られるようになる。
手数料についても配慮される模様だ。月に1回以上は口座から無料で出金できるよう、検討されている。これは「賃金の支払いに関する原則があり、労働者からの手数料受け取りは、原則としてできない」(堀弁護士)からだ。現在、資金移動業者の多くでは出金に対して手数料を取っている。
日本では、ほとんどの国民が銀行口座を持ち、正規雇用については給与の定期払いが一般的なため、デジタル払いによるインパクトはそれほど大きくなさそうだ。一方で、非正規労働者の給与については、昨今給与の前払いサービスも使われ始めており、リアルタイムに給与が振り込まれるようになれば、普及の可能性も大きいだろう。
またPayPay、LINE Pay、メルペイなどといったスマホ決済事業者にとっては、給与をサービスの残高として扱えるようになれば、サービスの価値が高まることになる。
給与のデジタル払いは法律の改正は必要なく、施行規則の省令改正で実現できる。パブリックコメントの実施は必要になるが、「国会を通す必要はなく、厚労省が案を決めて開始したあとは順次施行となる」(堀弁護士)見込みだ。
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