アリババがタオバオ特価版に力を入れるのは、Tmallなど既存のマーケットプレイスで偽物やコピー品を排除し、ブランド力を高めてきた結果、代償として低所得、農村地域の消費者を取りこぼし、新たなライバルの台頭を許してしまったからだ。
アリババのECサイトのユーザー数は10億人に迫るが、この数年は伸び悩みが課題になっていた。一方で15年に創業したECプラットフォーム「拼多多(Pingduoduo)」は低価格・共同購入商品で農村の低所得、中高年ユーザーに一気に浸透し、5年でユーザー数を6億人まで増やした。20年の一時期は、長者番付でも拼多多の創業者がジャック・マー氏を逆転し、「世代交代」と騒がれた。
アリババのタオバオ特価版は拼多多対策の一環と受け止められているが、コロナ禍で消費者格差が一段と開いたことやECの購入対象が家具や不動産まで広がり、C2Mという手法も順調に市民権を得つつある。
アリババはさらに20年10月、タオバオ特価版の「実店舗」と位置づける「1元均一の店」(1元は約16円)もオープンした。今後3年で1000店舗体制を目指しており、1元均一の店はテンセントと提携した雑貨チェーン「名創優品(メイソウ)」への宣戦布告と捉えられている。
張会長は会見で、20年12月に試験運用を始めたばかりの生鮮食品EC「タオバオ売菜」についても「非都市部の消費者が地域の食材を手に入れやすくなり、我々にとっては新規ユーザーの獲得につながる」と言及し、全国展開を急ぐ考えを示した。
ローエンド市場への進出は多くの業界にとって数年前から共通の課題だったが、コロナ禍の外出制限、テレワーク、格差拡大など予期せぬ外的要因によって、さらに重要性になっている。EC2位のJD.com(京東商城)などもC2M、農村強化に取り組んでおり、各社の「伸びしろ」の奪い合いが注目される。
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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