3Mがここまでの企業へ成長を遂げた理由として、同社の「小さく試す」組織文化が挙げられるでしょう。ビジョナリー・カンパニーでは、同社について次のように解説しています。
「少量生産し、少量売る」「小さな一歩を大切にしよう」という標語に示されているように、大型商品が小さな一歩から生まれることが少なくない点を3Mはよく理解している。しかし、小さな一歩のうちどれが大型商品につながるのかは、事前には分からない。そこで3Mは小さなことをいくつも試し、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものを捨てている。
3Mは「何が売れるか分からない」という市場の不確実性に対し、小さく早く試し、数多くの小さな失敗をしながら市場の求める製品を探り当てる組織づくりをしてきました。また業務時間の15%を研究開発に充てられる「15%カルチャー」が存在しています。
これらの組織文化は、アジャイル開発(短いスパンで開発・リリースを繰り返す開発手法)や、最短期間で仮説を検証する製品を開発するMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる手法と類似しています。
アジャイル開発やMVPは特にIT系スタートアップなどでよく用いられています。このような企業は、まだ何が売れるか分からない不確実性の高い状況や、競争が激しいために素早く製品を改良し続ける必要がある状況で、企業を運営しています。
彼らはスピード感をもって変化や市場の状況に対応するため、製品開発のグランドデザインはしつつも、市場の反応に合わせて仮説検証を繰り返しながら、製品の方向性について意思決定しているのです。
3Mは社員の創意工夫を奨励することによって、次々に新しい分野に進出し、変異と淘汰による方向性のない進化によって、素晴らしい事業ポートフォリオを持つことに成功しました。
一方、ノートンカンパニーは中央集権体制で、コスト削減と効率性の向上に傾注しており、研究開発では単一製品の改良に終始し、事業の多角化はM&Aに頼っていました。コンサルタントから渡された戦略に従い、計算づくで事業買収を行っていたのです。3Mのように組織内部から市場の変化に対応して進歩を促す仕組みを作るのではなく、失敗を減らし、無駄なく計画的に効率よく外部から調達しようという考え方です。
最終的に、ノートンカンパニーは敵対的買収により独立企業としての地位を失いました。中央集権型の経営で、無駄なく効率よく、戦略的に見通しを立てて計画的に物事を進めた結果、組織が柔軟性と発想力を失い、不確実性に対応ができない組織になってしまい、市場から淘汰されていったのです。
見通しが立ちやすい環境下や、大きな変革を行う際は、トップダウン・中央集権型で戦略的に計画を練り、それを確実に実行していくことのほうが有効なシーンもあります。しかし不確実性の高い状況下では、組織内部から市場の変化に対応し、進歩を促す仕組みを持った組織のほうが生存しやすいのです。
特に現在のように環境変化が激しく、不確実性の高い状況下では、ノートンカンパニーのようなトップダウン型の中央集権的組織から、3Mのような変化に対応しながら製品を開発できるアジャイル型組織に変革をしていくことが重要といえます。
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