都心部繁華街、駅前で空き店舗が増えているのは東京ばかりではない。
大阪の場合、インバウンドでにぎわっていた場所が道頓堀などミナミに集中しており、顧客の消失が経営危機に直結した店が多い。ビジネスパーソンが主たる顧客である梅田を中心としたキタでは、そこまで深刻なダメージを受けていない模様。
「ミナミ、特に道頓堀や黒門市場は、空き店舗が目立っていますね。地域密着の商店街は潰れそうだった店が撤退して、新しいテナントが入っている印象です」(大阪市経済戦略局)。
巨大なフグの看板が人気で、創業100年を迎えたフグ料理の老舗「づぼらや」は20年6月、道頓堀と新世界にあった店舗を閉じた。新世界の店舗の場合は、周囲に串かつの店舗が急増して来街者のフグ離れが起こっていたという事情も絡んでいた。
心斎橋から難波にかけて、インバウンド狙いで出店したドラッグストアの閉店も目立つ。20年5月には、ダイコクドラッグ、ツルハドラッグの店舗が閉まった。界隈(かいわい)では休業している店も散見される。何店かはこのまま閉店するかもしれない。このエリアだけでドラッグストアが20店近く集中し、各チェーンの旗艦店も多い。ドラッグストアは好調な業態だが、外出を控え、マスクで口、鼻、頬を覆っているので、日本人にも化粧品が売れない。もともと過当競争だったのだが、淘汰が早まったと考えられる。
黒門市場は大阪の台所と呼ばれており、食のプロを相手にした卸、小売業者が集まっていた。ここ3年ほどはちょうど移転前の築地市場のように、インバウンドの観光客に人気が出て、飲食店や土産物屋が増えていた。こうして最近できたお店が閉店したため、空き店舗が出ている。
天神橋筋、駒川などといった大阪の庶民の生活を支える商店街はどうか。「居酒屋がなくなった場所にパン屋が入った」(同)といったように、商店街の中での新旧交代はあるが、コロナ禍で空き店舗が増えたとはいえないとのことだ。
都心部における空き店舗の状況を調べてみて強く思うのは、医療崩壊を食い止めるために人の動きや会合、ひいては経済を一時的に止めるのは理解するが、「不利益を被る人に十分な補償が行き渡っているのか?」ということだ。そして、過剰な自粛で経済が破綻すれば、その経済に支えられている医療も崩壊する。こんな当たり前のことが忘れられていないか。
街中が空き店舗だらけ、失業者だらけのゴーストタウンになって、医療と介護のみ健全に栄える社会がこの世に存在するのだろうか。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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