ジョブ型雇用の落し穴──“日本の法”と相性が悪い!“真実”を見抜く人事戦略(1)(2/2 ページ)

» 2021年04月05日 07時00分 公開
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「職種が変わっても大幅減給できない」──減給の課題

 先ほどのインフラエンジニアをフロントエンドエンジニアに配置転換をしたとして、以下のような専門性や業務能力の差が生じた場合、減給が生じることがネックとなります。あまり現実的ではないですが、分かりやすいように差をつけて説明します。

  • インフラエンジニアとしての専門性や業務能力:ウィザードレベル(年収1500万円)
  • フロントエンジニアとしての専門性や業務能力:新卒レベル(年収500万円)

 ジョブ型を導入している場合、評価制度としてフロントエンジニアとしての能力に見合った、新卒と同等の給与を払うことになります。つまり、年収が1500万円から500万円に下がります。

 労働契約法の8条には「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」とあり、このような場合でも従業員の合意があれば法的責任は問われないこともあります。しかし、このような大幅な減額は使用者である企業による「権利の乱用」と取られかねません。

 従業員の合意が得られないなどの理由で、妥当でないと判断される場合、減額が無効と見なされることもあります。

※【編集履歴:2021年4月5日午後19時25分 初出時の記載に誤りがあったため、一部表現を改めました】
※【編集履歴:2021年4月6日午前10時00分 初出時の法解釈に誤りがあったため、一部表現を改めました】
※【編集履歴:2021年4月6日午前13時25分 本文の修正に合わせ、見出し内容と一部表現を改めました】

日本では大幅な減給が難しい(提供:ゲッティイメージズ)

 もちろん合意や管理職降格などの理由によっては可能な場合もありますが、日本の働き手の感覚としては納得できるものではないでしょう。

ジョブディスクリプション=ジョブ型ではない

 このように、ジョブ型は運用面において、労働法との相性が悪いことが分かります。もちろん、良くも悪くも日本の曖昧に運用する文化では可能なケースもあるかもしれませんが、論理的に大きく破綻している人事制度を運用するのにはリスクがあります。

 ここまで、人事施策の土台である法制度の話をしました。日本企業が欧米式のジョブ型を導入することが詰んでいる状態ではありますが、ここからはカスタマイズした雇用制度や評価制度を導入する上で誤解が生まれやすい部分を説明します。

 ジョブ型という言葉が流行しはじめた際に、「ジョブディスクリプションを細かく規定すべき」という話が広がりました。採用面においてジョブディスクリプションを人事や面接官が把握することはとても大切ですが、ジョブ型雇用を進める上でジョブディスクリプションを細かく規定することにあまり意味がありません。

 というのも、当社で実際に運用したところ、管理職などの仕事において、社内の課題に対して柔軟に対応する必要があるため、ジョブディスクリプションに対し、高頻度の変更が発生しました。このようにジョブディスクリプションを細かく規定しても、運用面のコストが上がってしまい、効果的ではありません。

思想を履き違えたジョブ型導入

 経営者の方からジョブ型導入に関して相談を受ける際に、特に多いのが「社内のローパフォーマーが使えないので、ジョブ型を導入することで給与に差をつけたい」「より専門的な仕事に集中してもらうために、ジョブ型を導入したい」という要望です。これは、過去流行った、「成果主義」の導入の際にも見受けられ、経済環境や景気が後退することで出てくるものだと感じています。

 ジョブ型というのは、海外(特に米国)の法制度や文化的な側面から、どのようにすればビジネスをうまく回せるかという思想によって生まれたものです。「日本人経営者のスケベ心で安易に導入して浸透するものではない」という認識が大事ではないでしょうか。

 大切なのは“ジョブ型”という形式の導入ではなく、日本の法制度や文化を前提に、自社の思想やビジネスモデルにとって最適なものは何かを考えることです。運用を含め、自社に合致していてロジックの破綻の少ない制度や施策を考え、導入する必要があります。

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