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会社を辞めて田舎暮らしを始めた元編集者が“自信と安心感”を得た理由(2/4 ページ)

» 2021年04月23日 16時00分 公開
[高橋史彦ITmedia]
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本で読んだことを実践

 クマガエ氏が田舎暮らしをはじめた背景には、高坂勝氏の著書『減速して自由に生きる』との出会いがある。経済成長至上主義に異を唱え、上昇・加速ではなく下降・減速し「ダウンシフト」する。具体的には、生活コストの低い地方に移住し、田んぼや畑で食料を自給する。その安心感を持って、のんびり過ごしながら自分が好きなこと、得意なことでナリワイを創出する――高坂氏の考えにふれたのは、雑誌が休刊し、もんもんとしていた14年秋だった。本を読んだことで「もうちょっと仕事を続けてみよう。だめだったら、いつでもそこにいけばいい」と勇気をもらった。

 高坂氏は匝瑳市を拠点とし、移住者のサポートや区画田んぼの貸し出しを行っている。クマガエ氏は初年度、その田んぼを半畝(約50平方メートル)借り、翌年に2畝(約200平方メートル)へ広げた。

 3年目から場所を移して5畝(約500平方メートル)、8畝(約800平方メートル)と拡大し、現在の規模は1.1反(約1100平方メートル)! これを友人と共同で世話し、20年は460キロの米を収穫した。分配して家にきたのが約150キロ。夫婦2人では年間100キロで十分な量だ。

 「あの米はめちゃくちゃうまいです。米ってこんなにおいしかったんだ、と驚くほどです。田んぼを取材したときは『毎日、都会で疲弊しているのは何なんだろう……』という気持ちになりました」(担当)

人生にはたくさんの選択肢があり、選べる

 漫画を通じて伝えたいのは、「人生は“選べる”」こと。生き方、働き方、住む場所には膨大な選択肢がある。作品を読んだ人が、「こんなのもアリなんだ」と思い、それぞれの人生を好きなように選んでいくようになったらいい、と考えている。

 「以前から自分の体験を発信したいと思っていて、その方法をずっと考えていました。だから、イブニング編集長の土屋さんに『漫画を作れ』といってもらったのは大きかった。漫画は入り口としてめちゃくちゃ広いから、ニッチな生き方を伝えるにはすごくいい

 漫画作りには、編集者時代の経験が役立っている。本作では1巻分のあらすじを先に作るなど準備には相当な時間もかけた。それは不安の裏返しでもあったという。

 「クマガエさんはとてもロジカルな作り方をされています。各話にキーワードがあり、テーマがある。要点も分かりやすく、過不足なく描かれている。ぼくの仕事がほとんどない(笑)」(担当)

 米と野菜を作りつつ、フリー編集と漫画原作を同時進行すると、当然忙しい状況も発生する。作品では「がんばらない」ことを掲げているが、実生活ではがんばってしまった。それでも、いまは世の中にメッセージを投げかけられている手応えがある。ちなみに1巻の単行本編集もクマガエ氏が手掛けている。

漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件 コミックスの帯

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