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日本人は、自らブラックな労働環境を望んでいるといえなくもないワケ働き方の「今」を知る(3/6 ページ)

» 2021年04月27日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]

 戦後、わが国が高度経済成長期を経て世界第2位の経済大国に長年居続けられた理由の一つは、「日本が世界有数の人口大国だった」からに他ならない。国内市場が大きく、当時は高齢者よりも若い人の割合が圧倒的に多く、経済成長分野に予算をつぎ込むことができた(人口ボーナス期)という背景事情のたまものなのだ。

 日本企業に特徴的な終身雇用(長期雇用慣行)が定着したのは、1950〜60年代にかけての神武景気、岩戸景気と呼ばれた好景気がきっかけといわれる。多くの企業で労働力が不足し、人員確保と定着を進めるために、特に大企業において長期雇用の慣習が一般化した。

 人口増加と好景気は、国民の所得を増加させるメリットがあった一方で、現在にも続くブラックな労働環境を構成する要素が形づくられたという面もある。モノをつくればつくった分だけ売れていくので、企業では残業や休日出勤、転勤や出向もいとわずに長時間働ける者が重宝され、評価されて出世していった。そして同じように家庭を顧みず、組織に滅私奉公する者を引き立て、同じような考えの管理職集団ができ上がっていくことになる。

 それが良いか/悪いかという話ではなく、当時はその方法が日本経済発展における最適解だったのだ。実際、経済発展に伴って報酬も右肩上がりであったため、誰も将来に不安を抱かず、おおむねハッピーであったというわけだ。

 しかし時代は移り変わった。人口は減少し、高齢者の割合は増加。労働力人口の割合は低下し、経済発展しにくい環境(人口オーナス期)となってしまっている。モノはある程度充足しているので、よほどの付加価値か新たな切り口を提案できないと売れないし、人件費は高騰しているため雇用を増やすこともままならない。共働き家庭の増加や高齢化による介護の必要性などから、育児や介護などの理由でフルタイム労働が難しい人の割合も増えている。

 すなわち、人口増加・高度成長期にうまく機能していたシステム(長期雇用、年功序列、滅私奉公)が、現在の人口減少・低成長期にはまったくフィットしておらず、それどころか逆に足かせのようになっているのに、過去の成功体験から抜け出せないまま無理やり使い続けようとして齟齬(そご)をきたしているのが今なのだ。そのひずみが現在、「長時間労働のまん延」「責任が重い割に低賃金」「組織のいいなりに転勤・転籍・出向を強いられる」「非正規雇用の立場が不安定」といった形で顕在化している。

画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ

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