クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタ豊田章男氏の主張は、我が身可愛さの行動なのか?高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2021年05月10日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
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中小企業の地道な努力は、日本の見えない財産だ

 エンジン車から電動車への変換を余儀なくされる中で、日本の自動車産業が危機に立たされていることを肌身に感じたのは、群馬県に本社を持つサンデンが中国企業に買収されたことも大きい。

 かつてサンデンはカークーラーでは一世を風靡(ふうび)したブランドである。しかし独立系の自動車部品メーカーは、このコロナ禍により一気に業績が悪化し、2018年からの3年間で黒字から赤字へと営業利益がひっくり返ってしまった。

 中国のハイセンスからは200億円以上の資金援助を受けるとはいっても、日本の金融機関が630億円もの債務を免除し金融支援もするのは、群馬県の地場産業をこれからも支えてくれるという期待を込めてのこと。ハイセンス側にそうしたサンデンや地元銀行の期待がどこまで伝わるか、見守っていきたいところだ。

 気候変動により、空調機器はクルマだけでなく家庭や店舗、工場にとっても必要不可欠なものとなっている。サンデンはコロナ禍による減産がトドメを指した格好だが、同社の高い技術力は、自社のノウハウだけでなく、小さな部品の一つ一つに込められた下請け企業の努力によっても支えられている。それらを抜きにして技術だけを継承しようとしても、ほころびが生じることになる。また元請けの買収により、日本の中小企業が消滅してしまったら、そうしたモノづくりの伝統も失われてしまうのだ。

 ちなみにハイセンスは、東芝のテレビ事業も買収して家電製品においては着実に売り上げを伸ばしている。昨今の自動車電動化の流れで、自動車事業も強化する狙いでサンデンへの出資を決めたようだ。

 どちらにせよ外資に日本の製造業を売り渡し、第2第3のサンデンを生むことは、日本の自動車産業が決定的なダメージを負うことにつながるから、避けるべきは明白だ。日本政府は声だけでなくアクションを起こし、日本の産業界を守り活性化するために最大限の支援を行うべき状況にある。

 台湾はそうした政策をすでに実施しており、着実に成果を上げている。日本にも優れたところはたくさんあるのだから、今ならまだ間に合うと、筆者は思っている。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


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