退職金4000万円上乗せ! パナの「50代狙い撃ちリストラ」は“正解”なのかスピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2021年05月18日 09時55分 公開
[窪田順生ITmedia]

早期退職に4000万円も払える会社

 われわれは何かとつけて「終身雇用は日本文化」「終身雇用が日本を強くした」と叫んでいるが、実はその理想通りのキャリアパスを歩んでいる労働者はほんのひと握りしかいないのだ。

 というと、「昔は違った」「日本が輝いていた時代は企業も終身雇用を守っていた」とか言い出す人も多いが、このような「理想と現実のギャップ」は実は高度経済成長期から存在していた。口では「終身雇用は日本文化」を叫びながらも苦しくなると、言い訳を並べてサクッとクビを切っていた。

生え抜き社員割合の推移(出典:厚生労働省)
産業別生え抜き社員(出典:厚生労働省)

 25年前のデータからも、それがうかがえる。旧労働省が約6000社を対象に、1996年1月時点で調査をした「平成8年雇用管理調査結果速報」によれば、「終身雇用慣行を重視する」と回答した企業はなんと18.9%にとどまっており、それに対して「終身雇用慣行にこだわらない」は50.5%もいた。

 このような企業のスタンスは40年前も50年前もそれほど大きく変わっていない。確かに、バブル期は企業も業績がいいので失業率は下がったが、それ以前はオイルショックなどの不況がくるたび企業は人員削減に踏み切っていた。「終身雇用」はスローガンとは別に水面下では、本音ベースのリストラが行われていたのだ。

 では、なぜこんな「本音と建前」の乖離(かいり)が起きてしまうのか。まず大きいのは産業構造だ。実は「日本企業」といっても、早期退職に4000万円も払えるパナソニックのような大企業は、日本にはわずか0.3%しかない。

 日本企業の99.7%を占めて、日本人労働者の7割が働いているのは、中小零細企業である。

 大企業は松下幸之助が言ったように終身雇用をキープできるが、資金力もない中小零細企業では難しい。大企業ならば、仕事をしないでふんぞりかえっている管理職を食わせてやることができるが、中小零細企業では露骨に肩たたきにあってしまうのだ。

 と聞くと、「ウチは小さな会社だが、定年まで面倒を見てくれるぞ」と気分がを害された方も多いだろうが、そのような個別の話ではなく、日本企業の99.7%を占める「中小零細企業全体」を見た場合、「そもそも終身雇用をしていない企業がかなり存在する」という事実を指摘したいだけだ。

 それがうかがえる調査もある。東京都が中小企業1407社を対象に行った「令和2年 中小企業の賃金・退職金事情調査」によれば、退職金制度があるのは927社で65.9%。つまり、残りの35%近くは、大企業にお勤めの方のような退職金制度がない恐れがあるのだ。

退職金制度の有無(出典:東京都)

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