退職金4000万円上乗せ! パナの「50代狙い撃ちリストラ」は“正解”なのかスピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2021年05月18日 09時55分 公開
[窪田順生ITmedia]

「勤続30年」はマイノリティー

 なんてことを言うと、「はあ? なにバカなこと言ってんだ!」と怒りでどうにかなってしまう人も多いだろう。日本人の一般常識では、戦後に日本企業が成長できたのは、終身雇用・年功序列という、いわゆる「日本型経営」のおかげということになっている。実際、「終身雇用があったから日本の労働者はクビの不安がなく一致団結できた」「日本の技術力が高いのは終身雇用で企業内にベテランが多くいたからだ」といった“自画自賛”を皆さんも一度は耳にしたことがあるはずだ。

 ただ、残念ながら、これは事実ではない。先進国のGDPは人口に比例するので、米国に次いで人口が第2位の日本が、米国に次いで第2位のGDPになるのは当然である。そんな数字に基づいた科学的な現象を、日本人が喜びそうな精神論・根性主義的なストーリーで後付け的に説明してしまっただけだ。

 データを客観的に見れば、実は大多数の日本人労働者は「終身雇用」の恩恵を受けていない現実が浮かび上がる。内閣府の「日本経済2017−2018」によれば、学校卒業後に就職して会社に定年まで勤める、いわゆる「一企業キャリア」を歩む人がどれほどいるかを以下のように紹介している。

 『就業経験のある男性の79%は初職が正規であるが、そのうち一度も退職することなく「終身雇用」パスを歩んでいる男性(退職回数0回)は、30代で48%、40代で38%、50代で34%である』

 「退職回数0回」の正社員男性に対して、「退職回数2回以上現在有業」「退職回数2回以上現在無職」など、転職を繰り返している男性は同じくらい存在している。また、最初の会社を非正規で働き始めた男性にいたっては、「退職回数2回以上現在有業」が圧倒的なボリュームを占めている。

 つまり、強みだ文化だというわりに「勤続30年」なんてのは日本の労働者の中でマイノリティーなのだ。

年齢階級別の転職割合(2016年末、出典:内閣府)

 また「我が国の構造問題・雇用慣行等について」(平成30年6月29日 厚生労働省職業安定局)の「賃金が低迷している背景(3)ー1:日本的雇用慣行の変化」というページには、『若年期に入職してそのまま同一企業に勤め続ける者(以下「生え抜き社員」)の割合をみると、2016年時点で大卒正社員の5割程度、高卒正社員の3割程度を占める』と記されている。これは裏を返せば、大卒の半分、高卒の7割は厳密には「終身雇用」を歩んでいないということだ。

 もちろん、この傾向は業種・学歴によって大きな「格差」がある。前出ページのグラフを見ると、「金融業・保険業」の大卒の「生え抜き社員」(正社員)は8割近くいるが、これが高卒だと3割強まで落ち込む。また、「製造業」は大卒・高卒ともにそれほど変わらず50%程度だが、「医療・福祉」になると大卒でも40%を下回り、高卒などは10%強にとどまっている。

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