退職金4000万円上乗せ! パナの「50代狙い撃ちリストラ」は“正解”なのかスピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2021年05月18日 09時55分 公開
[窪田順生ITmedia]
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「50代狙い撃ちリストラ」は象徴的な出来事

 断っておくが、松下氏を否定しているわけではない。戦前の革新官僚、戦後の鳩山一郎内閣など日本の指導者層が旧ソ連の「計画経済」の影響を受けているのは、歴史家が認めていることで、それ自体はなにも問題ない。

 ただ、「終身雇用は日本文化」「終身雇用こそ日本の強み」という感じで日本オリジナルのものだと思われていることが、実は旧ソ連の「計画経済」をベースにしたものだと指摘したいだけだ。

日本企業の99.7%は中小企業(出典:中小企業基盤整備機構)

 松下氏らに大きな影響を与えた「計画経済」が時代の変化で通用しなくなったことは、旧ソ連の崩壊が全て物語っている。そう考えれば、「計画経済」と表裏一体の「終身雇用」が立ち行かなくなってしまうのも当然のことなのだ。

 しかし、残念ながら人はどうしても「これまでのやり方が通用しない」という現実をなかなか受け入れられない生き物だ。原点に立ち戻るべきだ、若い人間のやり方が悪い、なんて感じで「古いシステム」に固執する。

 これを打破するには、多くの日本人に「もうこの旧ソ連型経済システムは通用しないんですよ」ということを理解していただく必要がある。終身雇用の父・松下幸之助のDNAを引き継ぐパナソニックが「50代狙い撃ちリストラ」するなんてのは、まさしく象徴的な出来事ではないか。

 実はわれわれが意識していないだけで、日本企業には終身雇用以外にも「計画経済」を引きずっている慣習が山ほどある。

 過剰なノルマ主義、帳尻合わせ的な統計不正、仕事の成果より無欠勤が評価されるカルチャー、定時出社への異常なこだわり、そして「上級国民」などと呼ばれる一部の特権階級が低賃金労働者を搾取する……など日本企業の問題は、すべて旧ソ連の国営企業で起きた問題を忠実に再現している。

 いいかげんそろそろ、日本企業は戦前から続く「社会主義の呪い」を断ち切らなければいけないのではないか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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