東芝、「調査報告書」騒動の本質は? 事件から学ぶ2つの教訓歴史的な企業統治スキャンダルか(2/4 ページ)

» 2021年06月16日 09時00分 公開

本スキャンダルのドラマ性

 まず、東芝レポートが明らかにした本事件のドラマを要約する。17年、財務状況悪化により上場廃止寸前にまで追い込まれた当時の東芝は、某証券会社を起用する(関連報道で、ゴールドマン・サックスであることが知られている。以下「GS」)。技術流出などを懸念する経済産業省を尻目に、アクティビストを含む外国投資家相手に6000億円規模の大型増資を実施する。

 20年3月ごろ、その外国投資家たちが東芝と協議を持ち始める。内容は、東芝に対する不満や要望への対応次第では、その年の定時総会で株主提案権の行使もありうる、というものだった。協議をもった株主には、東芝の筆頭株主で、村上ファンドの流れをくむと報じられるアクティビストのエフィッシモも含まれていた。

 定時株主総会での票読みにピリピリし始める東芝は、アクティビスト対応のために同じGSチームを起用し、経産省にも支援を要請する。経産省は、省内外の人物を通じ、いわゆる改正外為法を本来の趣旨を逸脱するかたちでカードに使いながら、エフィッシモやハーバード大学の基金運用ファンドなど大株主の株主提案権および議決権行使に不当な圧力を加えた。

 結局、総会では会社の思惑通りに票が集まるが、その直後から同総会における不公正さが国内外の報道で指摘される。多くの株主がその懸念に同調し、今年3月、当時の総会運営の公正さを検証する議案が臨時株主総会で決議される。

 まだドラマは続く。東芝レポート作成に向けた調査では、株主圧力問題に深く関与した東芝幹部らが、これまで世話を焼いてくれた経産省のことを“売って”しまう。社内にはある内部報告書があり、それが明るみにでれば、経産省への非難や糾弾が必至の内容だった。ある東芝幹部は、その報告書を東芝レポート作成担当者に開示すべきかを社内で議論する際、いわれたまま開示することと、「東芝が(開示を)拒否した」と東芝レポートで書かれることとを天びんにかけて、どちらの結末が東芝に得策かで判断すべき、と述べるなど非常に現実的な対応をした。もう一人の東芝幹部は、ヒアリング調査において、「(経産省の当時)K1課長は第三者からの情報をボロボロもらしてくるので、距離をおこうと思っていた」などと述べてしまっている。

 なお、東芝レポートでは、東芝による改正外為法への期待が、本来の趣旨である安全保障ではなくアクティビストの排除にあったという事実認定には、当時の車谷暢昭社長が送信したSMSをその証拠の一つとして挙げている。そのSMSの内容は、経産省がアクティビストを排除してくれると思うからGSへの報酬は実際の仕事量に見合う水準でよかろう、といった趣旨だった。東芝レポートが、ムラーレポートのようにドキュメンタリー化された暁には、GSは出番に事欠かないだろう。

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