ここまでは総務が策定すべき制度を解説してきた。ただ、制度は確立したとしても、ワーケーションには、プライベートな時間と仕事の時間を切り替えるのが難しいという課題もある。実際、月刊総務の調査で、ワーケーションに対するネガティブなイメージを聞いたところ、最も多く回答が集まったのは「仕事と休暇の線引きがあいまいになる」というものだった。
せっかくの休暇なのに、ずるずると仕事が続き、まともに休暇が取れない――そんな事態に社員が陥らないように、ワーケーションで可能な業務は、もともと予定していた会議などの業務のみに限定する、自分のペースで仕事ができるものに限定するなど、休暇中は新しい仕事を与えないといった周囲の配慮が必要となる。
そのためには、ワーケーション中の実労働時間の正確な把握も必須となる。例えば、旅先であっても、1日中仕事をした場合は「出勤」となり、あるいは1日のうち一部の時間を仕事に充てた場合は、時間単位での有給休暇としてカウントする必要があるのだ。ワーケーション中でも、タイムカードやPCのログ、もしくは出退勤の報告ルールを使って、労働時間を記録できる体制を取るべきである。
ワーケーション中の安全面も注意が必要だ。ワーケーション中の業務上の災害であれば労災保険の対象となるが、プライベートとしての時間で生じたものは労災保険の対象とはならない。その点はあらためて、ワーケーションを行う社員に対して注意を促しておくことだ。
こうした諸注意点はいろいろとあるが、在宅勤務やサードプレースでの仕事など、まずはいわゆるテレワークの活用がしっかりとされるようになってから、ワーケーションに入るのがスムーズであるし、おすすめする。
オフィスで仕事をしなくとも部内において仕事が回る、そのような体験をしつつ、さらに長期間テレワーク状態でも支障がないようにする、あるいはテレワークをしている中でいろいろと工夫をしてみる、そのようなことの積み重ねにより、ワーケーション制度を開始するのが現実的であろう。
長期の休暇を取得することが少ない働き盛りの社会人にとって、ワーケーションを活用することで、会議など外せない仕事の予定が入っていても、その予定を含めた期間に長期休暇を取ることができ、まとまった休暇が取得できるので、家族との時間が確保できるというメリットが確実にある。会社側にとっては、有給取得率を向上できるという効果も期待できる。ぜひ、自社において積極的に推進していきたいものである。
株式会社月刊総務 代表取締役社長 『月刊総務』編集長
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、『月刊総務』の編集長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)、『経営を強くする戦略総務』(日本能率協会マネジメントセンター)
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