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トヨタは「人間の顔をした会社」に変われるか? 「パワハラ再発防止策」を読み解く河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)

» 2021年06月25日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

 具体的な「再発防止に向けた取り組み」は以下の通りです(以下、抜粋し要約。全文はこちらから)。

1.声を出しやすい職場作りに向けた取り組み

  • 「相談窓口」への匿名での通報、同僚や家族など第三者からの相談も受け付ける
  • 若手社員に対する毎月のアンケートの実施、職場に相談員を設置

2.パワハラに対する厳格な姿勢を就業規則に反映

  • 就業規則に、「パワハラの禁止」および「パワハラを行った際の懲罰規定」を明記

3.異動時における評価情報の引継ぎの強化

  • 従業員の評価などの個人情報を一元管理。過去の評価や人事情報を確認できる
  • 適性を踏まえた業務アサイン、過去から一貫性のある育成の実施

4.マネジメントに対するパワハラの意識啓発

  • 幹部職・基幹職を対象に、パワハラ防止の教育を再度実施
  • 「人間力」のある人材、周囲へ好影響を与え信頼される力を持つ人を評価
  • 役員、 幹部職・基幹職を対象に、360度アンケートを導入。本人にフィードバックすることで、自らの行動を振り返り、改善につなげる

5.休務者の職場復職プロセスの見直し

  • 休務者の状況把握、復職可否判断、職場復帰後の職場環境面を含むケアについて、産業医、人事労務スタッフ・職場がこれまで以上に緊密に連携する
  • 精神科専門医が常駐する相談センターを開設。対面又はオンラインによって、メンタル不調者や上司との面談を実施し、産業医に専門的立場からのアドバイスを提供

 さて、いかがでしょうか。

 この取り組みは一言でいえば、「被害者が声をあげやすい環境づくり」と「加害者にならないための教育」の実践です。これはパワハラを生む悪しき状況を「変えること」につながるでしょうか?

 結論からいえば、社員一人一人がトップと共に、「変えよう」と努力すれば変わります。「同僚」が積極的に相談し (上記1)、アンケートに本心で答え(同1、4)、自ら改善する努力(同4)をすれば、パワハラに涙する社員を減らすことは十分可能です。そういった意味では、とても有意義な対策だと思います。

 しかし、この取り組みを実践しただけでは、「全ての社員が生き生きと元気に働く職場」になりません。

 パワハラを警戒するあまり、

  • 言ってはいけないと自分で決めつけたり、
  • 言いたいことを言えなかったり、
  • 聞きたいことを聞けなかったり、
  • 話しかけることを意識的に止めてしまったり

 ……といった空気が職場にできてしまうと、高い志も熱意もなえ、成長も実感できないし、生産性も向上しません。

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