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トヨタは「人間の顔をした会社」に変われるか? 「パワハラ再発防止策」を読み解く河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)

» 2021年06月25日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

 何も変えないことが、最も悪いことだ──。

 これはトヨタ自動車で海外展開を加速し、グローバル企業としての礎を作った奥田碩元会長の言葉です。

 奥田氏は、機会あるたびに「解雇は企業家にとって最悪の選択。株価のために雇用を犠牲にしてはならない」と語り、「人間の顔をした市場経済」という言葉を掲げました。「人」の大切さと可能性を信じ続けた名経営者の一人です。

 その“人を大切にする”トヨタ自動車で2017年、ある男性社員が上司のパワハラにより自殺に追い込まれるという由々しき事件が起きました。

パワハラが明らかになったトヨタ(提供:ゲッティイメージズ)

 パワハラ被害を受けた男性は、東京大学大学院を修了後、15年4月に入社。配属された部署で、直属の上司から「ばか、アホ」「こんな説明ができないなら死んだ方がいい」などと繰り返し言われ、個室に呼ばれた際には「発言を録音してないだろうな。携帯電話を出せ」と言われたそうです。

 男性はその後、適応障害と診断され休職し、16年10月に別の上司の下で復職。しかし、仕事で重圧がかかると手が震えるなどの状況が続き、17年7月には両親に、「会社ってごみや、死んだ方がましや」とメールを送り、周囲にも「自殺するかもしれない。ロープを買った」「死んで楽になりたい」などと漏らしていました。

 そして、17年10月末、寮の自室で自殺。豊田労働基準監督署は19年9月、パワハラと自殺の因果関係を認め労災認定し、21年4月にトヨタと遺族側で和解が成立しました。

 トヨタはこの事件を受け、6月7日にトップ指導でまとめた「再発防止策」を発表し、「風通しの良い職場風土を築くよう努力を続ける」とコメント。「変えること」を選択したのです。

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