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ハラスメントブームの功罪 立て続けに起こる「就活セクハラ」報道に潜む違和感をひもとく犯罪? ハラスメント?(4/4 ページ)

» 2021年06月28日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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懸念(1):「犯罪=ハラスメント」という誤解の拡散

 一つは、犯罪に相当するような行為でなければハラスメントには該当しないという、誤った認識が広がってしまう懸念です。セクハラに限らず、ハラスメントの問題がはらむ根深さの一つは、加害者が自らを加害者であると自覚していない点にあります。自身のささいな言動がハラスメントを引き起こしていることを自覚していない人は、不健全な行為を無意識に繰り返してしまい、被害者をさらに傷つけてしまうのです。

 中には完全に無自覚ではなく、ハラスメントになっているかもしれないと思いながらも、強い立場にいるために誰からも指摘されないのをいいことに、「これはハラスメントじゃない」と自分に都合よく解釈しているようなケースもあります。だからこそ、加害者に自覚を促すためにくっきりと輪郭をつけて“可視化”し、ささいな言動であっても問題になりうるのだと啓発する必要があるのです。

 しかし、犯罪とハラスメントを安易に結び付けてしまうと、自分に都合よく解釈する人は「犯罪にはならなければハラスメントではない」と誤った見方をしてしまいかねないのです。

 当然ですが、犯罪は違法行為のことです。一方、ハラスメントは、不健全な行為ですが、日本にはその行為自体を無条件に禁止する法律は存在せず、違法性については人格権などと照らし合わせて個々のケースの実情に応じて判断されるからこそ厄介なのであり、状況を自分に都合よく解釈するような加害者に自覚を促しにくい面があります。「違法」とまではいえなかったとしても、ハラスメントは不健全な行為であり、罪深き“悪行”なのだとハッキリ認識されなければなりません。

懸念(2):ハラスメント被害の矮小化

 犯罪行為をセクハラとくくってしまうことのもう一つの懸念は、実際は事件として扱われるべき犯罪行為だったとしても、ハラスメントの延長線上で不幸にも起きてしまった結果にすぎない、という具合に、悪質性において犯罪行為より軽いものであるかのような受け取られ方をしてしまうことです。

 実際に刑事事件として扱われるか否かは、被害者のプライバシーなどにも関わるデリケートな問題だけに慎重な判断がなされることと思います。しかし、紹介した記事にあったようなケースの実態が犯罪に該当するものなのだとしたら、「犯罪のための手段として強い立場を悪用した」という見方も必要になってくるはずです。

 ハラスメントに対する意識を高めるには、仮に本人には悪気がなく、日々のちょっとした言動であったとしても、ハラスメントになり得る、と気を引き締めるよう啓発することが必要です。そのためには、ハラスメントという見えづらい不健全な行為の輪郭をぼやかしてしまうことなく、ささいなことでもハラスメントになり得るのだと認識されるよう、ハッキリと可視化された状態にしておくことが重要なのだと考えます。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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