ではAmazonのベゾス氏退任によって、市場はどのような反応を示したか。退任発表の翌営業日である6日におけるAmazonの株価は前営業日比で4.7%上昇した。大塚家具など、CEOの退任が好感されて株価が上昇するケースがあるが、今回は意味合いが違う。ベゾス氏の退任発表でも株価が上がった背景は、退任後も会長として一定の影響力を持ち続けることが好感された点が大きい。
そうすると、創業者が陣頭指揮を執っているか否かは企業価値を左右する要因であると考えられる。そのため、市場への情報開示やコミュニケーションが欠落した状態で突然“退任”のような重要事項を発表する場合には、冒頭で取り上げた通り、不安材料となりやすい。
そのため、創業者が会長職となっても、代表権を維持したり、筆頭株主として影響力を保持したりといったソフトランディングが、円満な退任を成功させるカギであると筆者は考える。
ZOZO創業者であった前澤友作氏の事例は、退任における短期および中期の市場の動きを把握する上で有効な事例だ。ZOZOといえば、2年前の9月に当時のヤフージャパンが買収する方針を発表し、それと同時に前澤氏は代表取締役社長を退任した。TOBによる公開買付に前澤氏が応じることで市場へのインパクトを極限減らして引退できたことと、TOBは市場価格より通常高く買われる点で、短期的にはZOZOの株価を大きく押し上げ、投資家にも好感された。
しかし、前澤氏が全株を処分することは今後の影響力をもたらさないことを意味していた。TOB終了後の株価は坂を転がるように下落したのだ。TOB時の市場価格が2500円近辺だったが、そこから半年足らずで株価は半額の1250円まで落ちこんだ。今ではコロナ禍中におけるEC需要の高まりやヤフージャパンを傘下に収めるZHDとのシナジーが再評価され、ZOZOのピークであった18年の高値をのぞむ展開まで回復している。
同社は決算説明会資料の各ページで役職員の写真を貼り付けるユニークな資料を出しているが、「前澤社長」イメージの脱却を図ることによって、退任前後でZOZOに対する投資家の認識をうまく切り離すことに成功したのかもしれない。
創業者が永久に率いていくことは現実的に不可能な問題だ。そのため、少なくとも創業者がいなくなっても同じように成長を遂げられる組織や後継者を一定の影響力を保持した上で育成していくことや、退任の際には市場とのコミュニケーションを綿密に取っていくことが「創業者の退任」という不可避のイベントを成功させる要素であると考えられる。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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