電動キックボードは日本の交通に馴染むのか高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)

» 2021年07月19日 07時00分 公開
[高根英幸ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

経済を安全よりも優先すべきなのか

 実証実験を経て影響を受けるだろうが、現在、電動キックボードを含む次世代パーソナルモビリティの法整備が検討されている。警察庁の有識者委員会は先日、法的位置づけや規制緩和の指針を盛り込んだ中間報告をまとめている。

 それによれば次世代モビリティは大きく3種類に分類されることになるらしい。1つは最高速度時速6キロまでの歩道を走る宅配ロボットなどの電動車両で、2つ目は最高速度15キロまでの車道や自転車レーンを走行できる車両、3つ目は従来の原付きバイクと同じ最高速度30キロの車両だ。このような案が検討されているが、そこには2つの大きな懸念が存在する。

 それは速度15キロ以下かつ16歳以上であれば免許不要とするということと、ヘルメット着用は義務ではなく「着用を強く推奨する」という点だ。

 自転車専用レーンでの走行も認めるらしいが、自転車専用レーン=車道であることは、自転車で同レーンを利用している人なら誰でも知っていることだ。つまり、車道に最高速度15キロの不安定な電動キックボードが投入されることと、言っていることは何ら変わらないのである。

 電動キックボードを手軽なモビリティにしたいという意向は伝わってくるが、それがどれだけの弊害を生むか、本当に話し合って理解しているのだろうか。

 そうまでして電動キックボードを普及させようとする狙いは何なのだろう? 移動困難者のためのサービスではなく、移動効率化のサービスであれば、安全性より優先させるほどの経済効果があるとも思えない。警察庁は、どういうモビリティ社会の将来を描いているのだろうか。

 地域や道路を限定すれば、安全で便利なモビリティになるが、その一方で低価格で手軽に手に入る環境が徒となって低モラルな運転者を生んでしまう。16歳以上ならば無免許で乗れるとした場合、15歳以下でも無免許運転では取り締まれなくなる。ヘルメット着用を強く推奨の「強く」がどれほどの強制力を持つか。ほとんどの運転者が被らなくなるのは、誰でも想像できるのではないか。

 そういった負の部分への対策をどう行っていくかで、電動キックボードの未来が決まっていくのではないか。

 安全で快適に使うためのルール作りは、そのルールを逸脱した場合を想定しなければいけない。取り締まりも追い付かないような現状では、大きな事故がいくつも起こらないと、ことの重大さに目覚めないのだろうか。

 免許不要で乗れる乗り物は、道交法に対する知識や、自分を守る意識が少ない人でも利用することを想定しなければ大きな問題に発展する。ちなみに日本で免許不要で動力がある乗り物が乗れたのは、1960年以前の原付きバイクが最後であり、物理的に身体の小さな子供は運転できなかった。そしてそこからの道路交通の過密ぶりについては説明するまでもないことだ。

筆者プロフィール:高根英幸

芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.