DXは、プライバシーにどんな影響をもたらすのか(1/2 ページ)

» 2021年08月06日 10時00分 公開

 いま、日本企業では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やデータ活用・分析を担当する組織・部門を立ち上げることがトレンドになっている。しかしながら、その取り組みが社会や消費者の期待から逸れてしまい、デジタル技術はもとより、顧客やビジネスパートナーを理解していないことが露呈するケースもある。

 その一つに、プライバシー問題が挙げられる。顧客の離反や行政機関からの指導・罰則、株価の下落にまで影響が及ぶため、IT担当や法務の悩みの種になっている。

photo 写真はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 経済産業省が公表している「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」によれば、DXの定義は次の通りだ。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを元に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

 筆者の解釈にはなるが、データとデジタル技術を用いて、エコシステムやバリューチェーンを根本的に見直すことを指すと考えていただきたい。

 プライバシーの考慮が重要になるのは、大量の個人データを最新のデジタル技術を使って扱うことで、予期し得ないリスクが生じるからであろう。なぜなら、企業間の連携やサービスを構成する組織・プロセスの組み合わせが、従来とは比較にならないレベルで複雑になり、一個人(サービスを提供する組織に所属していても)の理解を超えてしまうからだ。

デジタル技術は、プライバシーにどんな影響をもたらすのか

 デジタル技術は、個人のプライバシーにどのような影響をもたらすのか。人工知能や“意識のデジタル化”など、未来に実現・実用化される技術はさておき、センシングとアナライズの領域における目覚ましい技術の発展を、直近の課題として捉える必要がある。

 従来扱われていたパーソナルデータは、氏名や住所など静的な情報であった。ところがセンシングとアナライズの発展により、さまざまなデバイスからアナログとデジタル、双方の空間で動的な行動履歴が取得・分析できるようになった。こうして、さまざまな性質を推知することが技術的に可能となっている。

 その結果、本人の意図しない情報を取得され、“自分の知らない自分”がさまざまなサービスで評価されてしまい、個人情報の機密性、完全性、可用性だけでなく、個人の自律や権利も侵害され得る時代が訪れている。

法の要件を満たしていればよし、ではない

 パーソナルデータを利用する場合、ヒューマンセントリック(人間中心)なサービスの提供や、デジタルエコシステムにおけるデータ流通をどのように行うかが論点になることが多い。

 例えば、個別の施策レベルでは、マーケティングやサービスの個人向けのカスタマイズ、データの第三者提供を伴うデータマネタイズ、グループ内やビジネスパートナーを含めた法人間でのパーソナルデータの共同利用──などが挙げられる。

 こうした施策を検討する際、企業が陥りがちな対応は、法的観点のみに終始してしまい、法の要求を満たしていればよし、という判断をしてしまうことだ。顧客・従業員の期待や現状を把握せずに、企業・組織の感覚で“普通”を決めてしまい、その結果として、サービスが受け入れられないことが起きてしまう。

 筆者がクライアント企業のDX担当者、データ活用の担当者と接していると、次のような声を聞くようになってきた。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.