儲けることが難しい「五輪ビジネス」に、なぜ日本企業は“お金”を出すのかスピン経済の歩き方(4/7 ページ)

» 2021年08月10日 09時41分 公開
[窪田順生ITmedia]

なぜ大企業が引っかかったのか

 さて、そこで疑問に思うのは、なぜこのような「経済的なメリット」がほとんどない五輪に、数十億円ものスポンサー料を払ったり、「五輪の経済効果でウハウハだ」みたいな設備投資を行ったりしてしまう日本企業がいるのかということだ。

 サントリーホールディングスの新波剛史社長が7月20日、CNN Businessの取材に応じて「五輪のパートナーとなることを考えたものの、経済的に割に合わなかった」と述べたように、ちょっと調べれば「投資先」としてうまみがないことは明白だ。なぜそんな怪しい話に、そうそうたる大企業が引っかかったのか。

 「アスリートのために、ビジネスを度外視として応援したのだ」という人もいるだろうが、筆者は主に2つの原因があったのではないかと思っている。それは国策と五輪神話だ。

東京五輪のスポンサーになってみたものの……(写真提供:ゲッティイメージズ)

 もう忘れている人も多いだろうが、「アベノミクスで日本復活!」と叫んでいた時代、日本政府は20年の東京五輪でホップ、25年の大阪万博でステップ、カジノを含むIRでジャンプ、という日本経済復活シナリオを見込んでいた。

 官房長官時代に、二階氏とともにIRをゴリゴリ押していた菅義偉首相は、基本的にこの成長シナリオを踏襲している。要するに、五輪は平和の祭典だという以前に、日本政府がゴリゴリに推進していた国策なのだ。

 「2050年カーボンニュートラル宣言」なんて怪しい話に、大手自動車メーカーが右にならえで従って従業員をリストラしていることからも分かるように、国の産業政策に近い大企業は国策には黙って従わないといけない。これと同じ構図で、国策である五輪にカネを突っ込むのは大企業の義務なのだ。

 このような国策で渋々カネを出した企業もあれば、心の底から「五輪はもうかる」と信じてカネを出した企業もある。日本では「1964年の東京五輪をきっかけに日本は成長した」という“神話”があるからだ。

 ただ、これはまさしく神話レベルの眉唾な話だ。マスコミによる「歴史の改ざん」と言ってもいいかもしれない。

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